第13話◆今日から冒険者

「グゥラァン……ッと、十二歳の誕生日は天の月の十二日っと。はーい、書けましたぁ!!」「はい、じゃあお預かりしますね。天の月生まれってことは先月十二歳になったばかりなのですね。字が書けるってことは読むのも大丈夫ですよね、じゃあこちらが初心者用ハンドブックなので、初心者講習が始まるまでの時間に軽く目を通しておいてください。初心者講習の部屋は――」


「ちょっと! 下ろして、下ろしてよ! ねえ! 下ろせ! 下ろせってば!!」

「うるせぇ! 少し大人しくしろ! 問題ばっか起こしやがって!! 今日という今日は許さねーからな! 奥の部屋を少し借りるぞー!!」

「ギャッ! いた! 殴った! 今思いっきり殴ったでしょ! 兄上にだって殴られたことがないのに!!」


 王都に到着した俺はすぐさま冒険者ギルドを訪れ、受け付けで冒険者登録をしていた。

 そこで申し込みの用紙を記入して受け付けのおねーさんの話を聞いていると、突然甲高い声がギルドのロビーに響きそちらを振り返れば、俺と同じくらいの年の銀髪でヒョロヒョロの子供が、黒髪の大男に猫のように服の襟を掴まれギルドの奥へと運ばれているのが見えた。


「なんだあれ?」

 俺の故郷でも悪戯盛りのガキが大人に捕まってあんな風に運ばれて行くのを見たな。

 もちろん俺もそういう経験はあるが、さすがにそういうお年頃はとっくに卒業している。

 いい年の子供が恥ずかしいなぁ。都会の子供は精神年齢が低いのかぁ?

 子供の独り立ちが早い田舎育ち、更に前世の記憶もある俺は十二歳といっても精神年齢は高いので、その光景を微笑ましい気持ちで見ていた。


 運ばれている銀髪の子供は非常に整った綺麗な顔で、その服装と聞こえてきた悪態がなければ男か女かわからなかっただろう。

 髪の毛は自分で切ったのだろうか。見るからに癖のあるゆる巻きの髪の毛が顎の辺りでガタガタに切られており、頭のてっぺんには中途半端な長さのアホ毛がピヨンと跳ねいる。

 それでも顔がいいせいで、もしかするとこれが都会で流行の髪型なのかと思ってしまいそうだ。

 そうだなぁ、俺が知っている中ではリリスさんの次くらいに綺麗な顔だなぁ。


「ああ、あれは王都冒険者ギルドの一種の名物ですかねぇ。やんちゃな子供と保護者みたいなものですけど、近寄ると巻き込まれるので気を付けてくださいね」

 受け付けのおねーさんが、しょうがない問題児を見守るお母さんのようなふんわりとした温かい表情で微笑んだ。

 どう見ても穏やかじゃなさそうな二人だったけれど、それを見守るおねーさんの優しそうなスマイル。

 なんだか王都の冒険者ギルドで上手くやっていけそうな気がした。


 そしてそれが、俺がアイツらを初めて見た時だった。





 冒険者に登録してからは、想像していたよりもスムーズにランクが上がった。

 最初の頃は報酬の低い簡単な仕事ばかりで、要領を掴むまでは金銭面で少し苦労をしたが、慣れてしまえば簡単な仕事なので効率よくポンポンとこなすことができた。

 なんだか前世の記憶にあるゲームのようで超楽しかったのを覚えている。

 こんなに簡単にランク上がって大丈夫? この調子だとすぐにAとかSまでいっちゃうよぉ?

 俺って冒険者に超向いてるんじゃね!?


 なんて冒険者を舐めたこと思っていたのが、ほんの数週間でEランクまで上がった頃。

 このまま行けば一年もしないうちにBランクいやAランクも余裕なのでは、とか舐めたことを思っていたら、Dランクの昇級条件がEよりずっと厳しく少し時間がかかった。

 それでもかなり効率よく依頼をこなし、冒険者向けの講習にも積極的に参加して知識や技術をどんどん身につけ、無事にDランクになった。


 Dランクになれば町の外の仕事も増え、一気に稼ぎもランクも上がりそうだなんて思ってルンルン気分になっていたら、Cランクの昇級試験を受けるために必要な依頼達成数がDまでとは桁違いに多くて白目を剥くことになった。

 これはDランク以下が初心者の研修期間のようなものだったり、戦闘能力がほとんどない者向けのランクだったりするからだ。

 冒険者の本番はDランクから。Dランクで漸く一人前というか、脱初心者ということだ。

 ここが本当のスタートラインだったということは、後に振り返って気付いた。




そして俺がアイツに初めて絡まれたのは、確かこの頃。


 Dランクになって間もない頃だった。


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