始まりはプロローグよりもずっと前
第12話◆訪れる全ての者に祝福を
気持ちのいいくらい晴れた日。
雲が見えない澄み切った空から降り注ぐ昼下がりの日の光は柔らかく心地が良いが、流れていく風は刺すように冷たくカラカラに乾燥している。
カサカサに乾き冷え切った頬がピリピリと痛み、唇はパリパリにひび割れている。
小さな荷馬車の荷台の後部に後ろ向きに腰をかけ、ガタガタとした揺れに合わせ足をブラブラと振る。
「坊主、王都が見えてきたぞ」
馬車の持ち主のおっちゃんが後ろを振り返り俺に声をかけた。
「え? どこどこ? うわ、想像してたよりずっとでかっ!」
体の向きを変え荷台の上に四つん這いになりながら前方に視線をやる。
先ほどからずっと上り坂の続く街道の先には、横に長く伸びる城壁らしき壁とその向こうに大きな建物の屋根が薄らと見えた。
「城壁の向こうにチラチラと見えてる屋根の中でも、一番背の高いのがロンブスブルク城だ。俺達庶民には縁はないが、あそこの王様とそのご家族が住んでるんだ」
「へ~、さすが王都。やっぱり王様がいるんだ」
どどどどどど田舎で育った俺は、数年に一度村にやって来る貴族をちょっと見たことあるくらいで、王族なんて雲の上の存在すぎてその存在に全く現実感がない。
「坊主、王都は悪い奴がたくさんいるから気を付けろよ。あと悪いことをするとすぐ捕まるからそっちも気を付けろよ」
「うん、気を付けるよ! とりあえず王都に着いたら冒険者になるんだ!」
冬が本番になり始めた季節、俺は期待と希望でワクワクしながらだんだん近付いてくる王都を見ていた。
この時、俺は十二歳になったばかり。
冒険者になるため山奥の村を出て、この国で一番人が集まるという王都ロンブスブルクに向かっていた。
俺の誕生は冬の初め。
十二の誕生日を迎えてすぐに故郷の村を出て、独り立ちするために王都ロンブスブルクを目指すことにした。
十二歳になれば冒険者に登録することができると教えてくれたのは、物心付いた頃からお世話になっていた美人シスターのリリスさん。
俺の住んでいる国がユーラティア王国という名前で、王都はロンブスブルクでそこがこの国で一番栄えていると教えてくれたのもリリスさん。
他にもたくさん村の外のことや村の外の常識を教えてくれた。
思うところがあって早く独り立ちしたかったのと、リリスさんから聞いた村の外の話に憧れて、故郷の辺りでは雪が降る時期だというのに十二になるとすぐに村を飛びだした。
どうして秋のうちに出発しなかったのだとか、春まで待てなかったのだとかなどと後になって思った。
まぁ、若気の至りというやつだ。
故郷の山はすでに雪が少し積もっていたが、麓の町に買い出しに行くおっちゃんの猪車で町まで送ってもらって楽ができた。
途中まではゲジゲジ様が護衛をしてくれて魔物を追い払ってくれていた。ゲジゲジ様は虫なのに冬でも平気らしい、さすがゲジゲジ様。
麓の町からペトレ・レオン・ハマダという大荒野の東の端を沿うように南下して、大きな街道沿いにある町へ。
山の麓の町から街道沿いの町までの道はあまりよくなく魔物の姿も多かったが、何だかよくわからない胴の長い猫がずっとついてきて、魔物を追い払ったり食べられるサソリを分けてくれたりした。
そのおかげで大きな街道まで無事に出ることができた。
ありがとう、長い猫!!
そこからは街道に沿って西へ行けば王都だとリリスさんに教えてもらっていた。
用心深い俺は立ち寄った町で迷子にならないように、道を聞いて確認しながら王都を目指した。
王都まで徒歩だと大きな街道に出てから一月以上かかると覚悟していたのだが、途中で馬車の車輪が外れて困っている人を助けたり、街道沿いの野営地点で料理をお裾分けしたりして仲良くなった人に、馬車に乗せてもらい二十日ほどで王都が見える場所まで来ていた。
今馬車に乗せてくれているおっちゃんも、街道沿いの野営場で仲良くなって行き先が王都だというので乗せてもらえることになったのだ。
いやー、ちょっとした料理をお裾分けして馬車に乗せてもらえるなんてラッキーだった。
しかも田舎出身であまり現金を持っていないと言ったら、溜め込んでいた素材や魔石を買い取ってくれた。
振り返ればかなり無茶な旅路だったが、オミツキ様やリリスさんがくれたお守りと道中にであった親切な人達のおかげで無事に王都に到着することができた。
王都まで馬車に乗せてくれたおっちゃんとは王都の入り口で別れ、おっちゃんが素材を買い取ってくれた金で通行税を払って王都の門をくぐった。
その時、門の柱に刻まれている文字が目に入った。
栄光の町ロンブスブルクを訪れる全ての者に祝福を――。
門の先で目の前の煌びやかで大きな町と、行き交う多くの人々に目を奪われ一度足を止める。
ここが今日から俺が冒険者生活を始める町。
希望と期待を胸に前へ踏み出す。
冒険者になったら友達百人できるかな!?
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