第9話◆十日後にやらかすグラン&巻き込まれるアベル――九日目

「あ……ああああああああ~~~~~~」

「も? やっぱりちょっと違ったも?」

「いや、俺の絵が下手だったのと説明不足もあったが……いや、これはこれでイイ。すごくイイ」

「もっ! 人間との交流はグラン以外はドワーフ経由なので、人間のことはグランと頭ピカピカくらいしか知らないから、人間に造形が近いエルフを参考にしたも」

「言われてみるとそうだよな。だがそれが人形をいい雰囲気に仕上げているな」


 タルバに渡されたのは、頼んでいた衣服溶解実験に使う人形。

 後から服を着せるつもりだったので、人形は中身の女の子だけ。でもすっぽんぽんはなんか恥ずかしいし可哀想なので、上手く隠してくれという注文をしていた。


 それで出来上がってきたものが顔も体型もリアル寄りで、顔立ちは人間よりエルフ近く、色白の肌に薄い金色のゆる巻きロングヘア。目の部分には瞳のように細工された青い魔石が嵌め込まれている。

 その顔と髪の雰囲気から裕福な家の女の子が持っているような高級な人形に近い印象を受ける。

 前世でいうとこのドールってやつに近いかなぁ。

 しかし目には魔石、素材も質の良いものが使われているため、綺麗な人形だがその気になればゴーレムとして動かせそうだな。


 そしてただのお嬢様向けの人形と確実に違う点は他にもある。

 ビキニ型の下着風に薄ピンクのフサフサとした動物の毛が付けられ、それとバランスを取るように手首から先と足首から先は肉球付きでもふもふとした獣の手足にようになっている。

 これも俺が絵が下手で手足を上手くかけなかったのもあるのだが、これはこれで悪くない。


 あ、手足のもふもふは取り外し可能で中は人間の手足っぽくなってるんだ。

 え? 尻尾とケモ耳もある? 猫系、犬系、ウサギ系がある?

 関節部分が球体なのも、この人形の雰囲気に合っていてとてもいい。

 なるほど……悪くないな……さすがタルバ、グッジョブ!!

 うん、めっちゃ気に入ったよ! ありがとう!!



 タルバに謝礼を支払って帰宅して冷静になると、新たな悩みができてしまった。

 この人形、出来が良すぎてスライムの実験用にするのはもったいないな。しかも材料費とタルバに払った制作料で結構高くついたし、スライムの餌食にするのは気が引ける。

 うーん、服を溶かす実験は俺の腕に布でも巻いて試せばいいか。

 そうだな、それが安全で平和でいいな!!


 それと、俺が人形のために用意した服はサイズもイメージもちょっと合わないから、もっとこうヒラヒラした可愛い服を作るか。

 もちろん作ったぶんはもったいないからサイズを調整して、着せ替え用として残しておこう。

 パッセロ商店でレース系の生地も買ってきているし、よしヒラヒラ洋服にチャレンジするか。

 人形用の冒険者服を作ったおかげで、裁縫スキルも少し上がっているだろうし、ヒラヒラした服ももサクサク作れないかな?

 ドレスがいいかなぁ? メイド服がいいかなぁ?


 あ、これは俺が人形遊びをするためではないぞ。

 そ、そうだ、ドールは芸術品なのだ。

 人形ちゃんの服を溶かそうという考えはなくなったが、可愛い服をいっぱい作ってあげたくなった。

 いっぱい服を作っておくと三姉妹達が人形遊びに使ってくれるかもしれないな。


 そんな理由で今日も夜遅くまでチクチクと裁縫に励むことになった。






 そして深夜、いつの間にか降り始めた雨は激しい風と雷を伴う嵐となっていた。

 

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