第5話 大都市 ハーミルト
森の中を抜けたディラスとクレナは無事に大都市ハーミルトに到着した。
ハーミルトは森に囲まれた大きな街で、争いなどとはほぼ無縁な土地だ。
ディラスとクレナは初めて見る大都市に驚愕していた。
食事屋さん、鍛冶屋、教会、パーツ屋。 ありとあらゆるお店が並んでいる。
その光景は本来の目的を忘れてしまう程、「平和」という言葉が似合っていて、2人はすごく居心地がよかった。
「僕達が見た世界は偽物だったのではないか? 幻覚だったのか?」
と考えてしまう程だった。
だが、他の街の現状、 付近の被害状況などを書いた紙が、道端や建物に貼ってあるのを見て2人の甘い思い込みは一気に消えてなくなる。
やはりこの街の外では紛争が頻発しているらしく、このハーミルトに来る半分の人間は相手から奪ったパーツを売りに出し、商売をするもの達だという事がわかった。
確かに周りを見たら出店が立ち並んでおり、色々なパーツが売りさばかれている。
それを笑いながらパーツを選ぶ者たち、客寄せの為に大きな声で値引きをすると叫んでいる商人達。
「命の価値はいったいなんなのだろうか? お金で買っていいものなのか?」
こんな想いで押しつぶされそうなディラス。
その光景から逃げ出したいディラスは、クレナの手をとり街の奥へと歩いていく。
すると街の奥の家から、人とも見えるし動物とも見える者が外に出てきた。
獣人である。
獣人はとても神聖な生き物で、神の使いとも言われている生き物だ。
ディラスとクレナはその姿をずっと見つめていた。
視線に気づいたのか、獣人がこちらを見て手招きしている。
近くに来た2人をみて獣人は問いかけた。
獣人
「君達2人はどういう関係だい? 友達同士かい?」
ディラス
「友達? 友達という言葉の意味がわかりませんが、2人でやり遂げたい事があって一緒に行動しています。」
獣人
「ほう、そうなのか。 そのやり遂げたい事はいったいなんだい?」
ディラス
「このパーツの奪い合いが頻発して、数多くの人が倒れている姿を見たら、胸の奥が何故か凄く痛むのです。
だから、そのような光景を見ないようにする為、世界を変える事です」
その言葉を聞き、獣人はすごく驚いた表情だった。
そして次は凄く真剣な顔をしてディラス達に問いかける。
獣人
「世界を変える… つまり紛争がない世界を作ると言う事かい?」
ディラス
「はい。それもそうなのですが、僕はこの世界のシステムその物を変えたいのです。 パーツを物を買って命が産まれる。 このシステム自体を変えたいのです。 さすれば争いもなくなると信じています。」
獣人は長い溜息をつきながらまた話し始める。
獣人
「なるほど。 私はその答えを知っている。 だが、これは教える物じゃなくて自分達で気づかないと意味がないものなのだ。 お前達はこの街に着くまで外で何を見てきた? 答えはそこにある。」
こう言い残すと、獣人は静かに去っていった。
ディラスとクレナは顔を向け合い、2人で考えている。 何を見てきたか…
戦争、死んだ人達、荒れ果てた村、森、動物達。
ディラスとクレナは必死に今まで歩んできた道や風景を思い浮かべるが、答えはわからない。
結局いつまでもわからない2人。だが、答えは外の世界にあるというヒントを得た2人は、 もっともっとたくさんの光景を見ようと決意し、ハーミルトを出る事を決意したのだった…
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