第21話 助けが必要ならば ※ハルトヴィヒ視点
最近、シャルロッテ嬢の表情が暗くなる瞬間を何度も見かけた。何か悩みがあるのかもしれない。
彼女が表情を暗くする原因として考えられるのは、菓子店シェトレボーに関する事ぐらい。だが、問題が起きているという報告は受けていない。実は色々な方面に手を回し、シェトレボーで問題が起きないよう秘密裏にサポートしていた。
新規参入してきた彼女の店が排除されないように、他店との関係を取り持ったり。成功している彼女の店に嫉妬して、妨害しようとする者たちを密かに調べ上げたら、人知れず処理した。それなりの資金を投入していた。シャルロッテ嬢には内緒で。
これを彼女に話してしまうと、遠慮して支援を断ってしまう可能性がある。なので黙っていた。これは俺が、シェトレボーをサポートしたいと思ったから勝手にやっているだけ。シャルロッテ嬢が気にする事ではない。
彼女のためだけではなく、帝国にも大きな利益になるだろうから。シェトレボーが失われた時の損害を考えれば、安いものだと思う。
監視もつけて、報告があれば対処できるように備えていた。だが、シェトレボーは大盛況で順調に経営を続けていると聞いている。問題はないはず。
ならば、シャルロッテ嬢は何を悩んで表情を暗くしているのだろうか。気になって仕方がない。プライベートの事なのか。
聞いていい悩みなのかも分からない。余計な口出しをして嫌われたり、今の関係が崩壊するのは絶対に嫌だ。そんな事を考えると、本人から理由は聞き出せなかった。
なので俺は、シャルロッテ嬢から相談してくるのを待った。相談された時、全力で手助けするために備えていた。
しばらく待っていたが、彼女から相談されることは無かった。
表情を暗くする頻度も増えてきた。新しい商品の試作品評会を行っている時まで、彼女は暗い顔をするようになった。楽しい時間のはずなのに。
かなり深刻な問題なのかもしれない。とても心配で、どうにかしたいと思う。だから俺は、覚悟を決めて聞いた。
嫌われてしまってもいい。これ以上、彼女を悲しませる問題が続いているのなら、それを解決する。嫌われたとしても、彼女が明るくなってくれる方が大事だろう。
それに、彼女を助けたいという素直な気持ちを打ち明ければ、嫌われることなんて無いはず。最悪な事態には、ならないと思った。
「シャルロッテ嬢、どうしました? 最近、元気がないようですが」
「えっ!? そ、そうでしょうか……?」
「えぇ。何か、深刻な悩みでも抱えているのかと思って」
「…………」
シャルロッテ嬢は、黙ってしまった。やはり、言いにくいような悩みなのか。俺が彼女に悩みを聞いたのは、余計なお世話だったかもしれない。
その瞬間、後悔する。聞かなければよかった。だけど、聞いてしまった。ならば、俺は諦めない。
彼女が話し出すまで静かに待つつもりで居たけれど、さらに突っ込む。思い切って聞いてみることにした。彼女の悩みを解決することだけが、優先するべき事。
「無理に聞こうとは思ってません。でも、もしも辛いことがあるのであれば、誰かに相談した方が良いです。抱え込むより、楽になりますからね」
「……あの、実は」
ためらいながら、彼女は教えてくれた。すぐ王国に戻ってくるように、という命令が来たらしい。しかも、王国の王子から。
その男は、彼女の元婚約相手だったらしい。その王子に命令されて、王国での営業を禁止されたそうだ。その事については、前に話を聞いていた。帝国に来た原因でもあるので、よく知っている。
そして今、王国に戻ってくるよう言われたと。なんて自分勝手な男だろうか。話を聞いているうちに、他国の王子に対して怒りを覚える。
のらりくらりかわしてきたけれど、もう無理そう。これ以上、帝国に留まり続けることが出来ない。帰国を拒否したいけれど、貴族令嬢という立場もあった。王国には戻りたくないけれど、戻らないといけない。
それが、彼女を苦しませている悩みだった。
シャルロッテ嬢に話を聞いて、瞬時に解決策が浮かんだ。彼女が帝国に残るための理由が必要だということ。その理由を、俺は用意することが出来る。
少し悩んでから、覚悟を決めた。そして俺は、彼女に提案する。
「それなら、俺と結婚してくれないか?」
「えっ……?」
言葉が自然に、口からスッと出てきた。俺の言葉を聞いたシャルロッテ嬢は、呆然としている。当然の反応だろう。いきなりの求婚に、驚かないはずが無い。
だけど、俺は本気だ。しばらく前から考えていた。この機会を逃してはいけない。ここで言わなければ後悔すると分かっていたから、迷わなかった。
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