第22話 プロポーズ

 私なんかでいいのだろうか。


 結婚してくれと言われた時、とても嬉しかった。でも、私の抱える問題を解決するために結婚するなんて、そんなの申し訳ない。


 これまで、ハルトヴィヒさんには色々と助けられてきた。帝国でお店を始める時、店舗の用意や材料の仕入先の開拓、資金の調達までサポートしてもらった。


 これ以上、彼に負担をかけてしまうのが心苦しいと思ってしまう。そんな私の考えを見抜いたのだろう。彼は言ってくれた。


「何も気にする必要はない。これでも俺は、帝国でかなりの権力を持っているんだ。王国の王子を相手にしても負けないぐらい」


 ハルトヴィヒさんの正体について、詳しい話は聞いていない。しかし彼が、高貴な身分であるということは感じていた。普通の貴族じゃない、皇族に近しい上級貴族。もしかしたら、皇族かもしれないと疑っていた。


 他国の王子を相手にしても負けない、ということは。つまり。


「実は、俺はリメルルカ帝国の皇子なんだ」

「そう、だったのですか」

「今まで黙っていて、すまない」

「い、いえッ、そんな! 私の方こそ、失礼な態度を」

「いや、それは構わないよ。今までと同じように接してくれると嬉しい」

「えっと、はい……。わかりました」


 予想はしていた。だけど、実際に聞いたら驚いてしまう。今までの関係が変わってしまうような、大きな衝撃を受けた。


 けれど、ハルトヴィヒさんは今までと同じように接してほしいと言ってくれた。私も、それを望んでいる。今までの関係が変わってしまうのは、とても悲しい。


 そして、ハルトヴィヒさんは色々と教えてくれた。皇族だけど、帝位継承の権利を放棄していること。正確にはまだ権利は失っていない。帝位を継ぐ可能性もある存在であること。継承者については、もう既に他の人で確定している。なので、可能性はほぼゼロらしい。本人も、皇帝になりたいという気持ちは一切ないという。


 皇帝になるようなお方ではないことが判明した。それでも、貴族の令嬢でしかない私よりも、遥かに高い地位にいる人だというのは間違いなかった。


「どうして、そこまでしてくださるのですか? 私は、何一つ返せていないのに」

「そんな事はないよ。俺は、君から沢山のものを貰っている。君と出会えて、本当に良かったと思っている。これから先も、ずっと一緒にいたいと思うほどにね」

「……っ!」


 情熱的な言葉に、顔が熱くなってしまう。胸の鼓動が激しくなるのを感じていた。こんなにも想われていることが、とても嬉しくて。


 ずっと一緒にいたい。彼も、私と同じように思っていることが分かって、本当に幸せだと思った。


「君を、失いたくないんだ」

「ッッッ!?」


 真っ直ぐな目で、私を見つめながら言う彼。彼の言葉が胸に染み渡る。愛されている事が伝わってきて、どうしようもなく嬉しかった。


「シャルロッテ」


 ハルトヴィヒさんの指先が頬に触れる。優しく撫でられて、ドキッとした。そしてそのまま、ゆっくりと顔を近づけてくる。今まで一番、彼との近い距離。


 あぁ、キスされるんだ。


 目を閉じて受け入れた。唇同士が触れ合う。最初は、優しく触れるだけ。それから段々と深くなっていく。やがて口づけが終わると、離れていく彼の唇。


 名残惜しく感じる。離れたくない。もっと近くで、ずっと一緒に。


「結婚しよう、シャルロッテ」

「はい、ハルトヴィヒ様! これから末永く、よろしくお願いします」


 断ることなんて考えられない。こうして私は、彼と結婚することになった。

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