第10話 絶品 ※ハルトヴィヒ視点

「なるほど。これが、例の品か」

「依頼のあった、ユークイナ王国にあるシェトレボーというお菓子店から取り寄せた商品でございます」


 俺の目の前には、小さな木箱が何個か置かれていた。商人のイングルに依頼して、手に入れてもらったものだ。これが到着するのを今か今かと待っていたが、ようやく目の前に届いた。逸る気持ちを抑えながら、噂の菓子について確かめてみる。


 さて、どうだろうか。そういえば、これを入手する際に商人イングルは味見したと話していた。


「お前は、先に食べてみたのか?」

「はい。とても美味しゅうございました」


 イングルが満面の笑みで、そう答える。これは期待できそうだ。話を聞きながら、木箱の蓋を1つ開けてみる。中には、茶色くて細長い焼き菓子が入っていた。


「ふむ。見た目は、とても美味そうだな」

「保存が利くように、特別な処理がしてあるそうです。ですが、早めに食べるように言われています。菓子でも鮮度が落ちてしまうとか」

「それは急がないと! では、早速食べてみよう。シェフ、すぐに用意してくれ」

「かしこまりました」


 近くで控えていた料理人に声をかけると、焼き菓子を皿に盛り付けて運んできた。味も大事だけれど、菓子は、見た目も非常に重要だ。それから、香りも大事である。


「ふむふむ」


 この焼き菓子は、甘いような爽やかな香りがするな。まずは、目の前にある菓子を丁寧にチェック。まだ食べない。じっくり堪能していく。


「どうぞ、こちらは問題ありません。とても美味しいです」

「わかった」


 毒見を済ませてから、皿の上に置かれた焼き菓子をフォークでカットする。そしてまだ食べないで、ゆっくり観察する。これは、どんな味がするのかを想像しながら、口に入れた。


「これはッ! なるほど、美味いな」


 思わず呟いてしまった。これは本当に美味しい。今まで食べたことのないぐらい、丁寧な味がする。それはまさに、俺が求めていた味だった。


 サクッとした歯ざわりの後に、口の中に広がるバターの風味と甘み。鼻から抜ける香りも良い。ほのかな甘味と、芳醇な香りが口いっぱいに広がる。後味もスッキリ。かなり良いぞ。


 その味が素晴らしすぎて、あっという間に食べてしまった。こんなに完成度の高い菓子が、この世に存在していたなんて。俺の想像を超えていた。


「イングル、これと同じものを何箱か買ってきてくれ。あとは、これを作ってくれた職人を帝国に引き抜きたいのだが、無理だろうか?」


 この菓子を作ることが出来る職人を帝国に呼び込み、俺専属の菓子職人にしたい。そのためなら、莫大な金額を支払うことも厭わない。


 しかし、俺の願いに対してイングルは難しい顔をした。


「難しいと思います。シェトレボーの店主は、王国の令嬢です。色々と難しい事情があるようでして」

「そうか……。ならば、せめてレシピだけでも教えてもらえないか? それだけでもいいんだが」

「それも難しいでしょう。シェトレボーは非常に人気の店なので、大事な商品の情報を簡単には漏らさないでしょう。それに、この菓子店は王国に大きな影響もあるようなので、やはり簡単にはいかないかと」


 それでも、諦めることが出来ない。この絶品を知った後は、どうにかして菓子店の店主や職人たちを帝国に呼び込みたいと強く思うようになった。

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