第4話 お父様との話し合い
屋敷に戻ってきて、お父様がいつも仕事している執務室に直行した。到着したら、一度深呼吸して冷静になる。覚悟を決めて、扉をノックした。
「……なんだ?」
部屋の中から、お父様の返事があったので安心する。執務室に居るのは聞いていたけれど、返事があるかどうか分からなかった。気分によって、無視されることもあるので。仕事が忙しい、という理由もあるのでしょうけれど。
「失礼します。シャルロッテです」
「シャルロッテか。どうした?」
私は、扉に向かって話をする。部屋の中からは面倒そうな声が返ってきた。でも、私は気にしない。いつものことなので。そのまま話を続ける。
「至急、伝えないといけない事があります」
「……今は忙しい。後じゃダメなのか?」
「今じゃないとダメです」
かなり強引に、入室の許可を求める。今すぐエヴラール王子との婚約破棄について伝えておきたいので、私は必死だった。この後、お菓子店に行ってスタッフ達と話をする時間が減ってしまうから。こっちの用事は、早く終わらせておきたい。
「……」
「……」
しばらく沈黙が続くけれど、辛抱強く待つ。すると、部屋の中から返事があった。
「……ハァ。わかった、入ってこい」
なんとか許可が出たので、私は扉を開けて部屋の中に入る。立派なデスクに座り、書類を片手に持ちながら、面倒そうなお父様の表情が見えた。眉間にシワを寄せて、機嫌が悪いようだ。この雰囲気で報告するのは嫌だな。でも後回しにしてしまうと、なぜ報告しなかったのかと怒られるかもしれない。
デスクを間に挟み、お父様の正面に立つ。私がそこに移動しても、お父様は手元の書類に注目していた。頭を上げず、私の顔は見ようとしない。
「それで、何の用だ?」
お父様の視線はデスクに向けたまま、私とは目も合わせずに会話が始まった。
「先ほど、エヴラール王子と会って話をしました」
「それで?」
「婚約破棄を言い渡されました」
「そうか」
ちゃんと私の話を聞いているのかどうか不安になるような返事と薄い反応だった。ヴィラルドワン公爵家にも大きく関係していることを報告したはずなのに、今も顔を上げない。淡々としすぎている。
驚かせようとするつもりはないけれど、それにしても反応が薄すぎると思う。もう少しリアクションがあっても良いのではないかしら。そう思うが、何も言わない。
「王子との婚約破棄については了解した。そのように手続きを進める。話はそれだけなのか?」
一応、話は聞いていたらしい。私は、お父様と話を続ける。
「もう一つ。私の経営していたお菓子店の営業を禁止すると、エヴラール王子に言われました」
「そうか」
コチラも淡々とした反応で返された。そんなお父様に私は、お願いしてみる。多分無駄だと思うけど。
「ヴィラルドワン公爵家の権限を駆使して、どうにか営業停止処分を撤回してもらうことは出来ませんか?」
「ん? なぜ私が、そんなことをしないといけないのだ? お前が好き勝手に始めた商売だろう。ならば、お前が最後まで面倒を見ろ」
私のお願いは、バッサリと切り捨てられた。やっぱりダメだったか。想像していた通りの答えが返ってきた。ちょっと落ち込む。
でもこれは、仕方ない。お父様の言っていることも、ある意味正しいと思う。私が始めたのだから、私が責任を取らなければ。
私の商売は、少しだけヴィラルドワン公爵家に関係あること。でも、公爵家の当主であるお父様は無関心だった。
私の経営しているお店だけど、収入の一部を公爵家に収めている。お菓子店を始める時にお金が必要になって、そういう契約書を交わして借りたから。借りたお金は、既に返済済みだ。けれど、契約は継続していた。お店が無くなってしまえば、契約も破棄される。そういう内容だった。
営業を停止することで公爵家の収入に多少なりとも影響を及ぼすことを、お父様はちゃんと把握しているはず。確認するべきか、脳裏に浮かんだけど、すぐに消した。これは流石に、公爵家の当主に対して差し出がましい行為だろうから。
「それから、殿下から指示されたのであれば必ず従うように」
「わかりました」
「話は以上だな? なら、仕事のジャマだから。さっさと出て行け」
「失礼します」
追い出されるようにして、お父様の執務室から出た。一応、伝えておきたいことは全て伝えた。
想像していた通り、無関心で冷たい対応。助けを求めてみても拒否された。後は、自分達でなんとかするしかないようだ。
私は、自分の大切なお菓子店のことだけ集中して考えることにした。家のことは、一旦置いておこう。
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