第七話 やらかしたことはなんとかしておかないと後で襲い掛かってくる
「──それでは、今日から正式にお前を弟子として受け入れる」
「はい、ありがとうございます」
翌日になってから、家の中庭で俺はヴィクトーリヤさんと対面していた。
なんと呼ぼうか。
師匠?
先生はもういるし、なんなら俺も師と呼ぶのがふさわしいかもしれん。
一応6歳だが、精神年齢の合計値は三十路近くになる。レオパルドパパと同じくらいって言えばいいか。
肉体に引っ張られてるのか元々子供おじさんなのかは判断できないけど、大人びてる子供で済まされる程度の精神性でしかない俺にとって美人の呼び名を考えるというのはなかなかにハードな問題だ。
順当に行けばやっぱ師匠とか先生がベストだよな。
先生はサンセットの爺さんだし……やっぱり師匠が安定か。
「
「どうした?」
「あなたのご息女について」
ピクリと眉を反応させた。
う……お、怒ってる?
「……それが、お前となんの関係がある?」
「いえ、その……聞けば、俺との試合が原因で今この場を離れていると聞きます」
「その通りだな」
「本来なら姉弟子であるエレーナさんも共に師事を受けるべきで、それが解決しないまま続けるのは問題があると、その……思います。俺が原因ですけど」
怖ぇ〜〜!
でもこれだけは言っておかないと後に響くから出来るだけ早く解決しないとダメなので、ふおおお!
心臓がバクバク言ってる。
師は顎に手を当てて何かを考えている。
俺の処刑方法とか?
ハハッ、三度目の人生はゆっくりいきたかったんだが……ダメか。
アッシュくん、これに懲りたら尊大な物言いと態度は改めるように。差別とかしちゃダメだよ。
「……姉弟子。お前はそう認識しているのか?」
「え? はい。少なくとも闇魔法に関して俺は素人同然なので」
「そうか」
そもそも先に弟子入りしてるだろ。
俺は弟弟子に当たる(向こうからすれば嫌だろうけど)。
相手が横柄な人格ならともかく、俺が一方的に最低なことをしただけの関係に過ぎない現状、俺から謙っていかなければならないのは道理だ。
日本人的にはそうなる。
「……あの頃の振る舞いについて、どう思う」
師は顎に手を当てたまま、訝しむようにこちらを見てきた。
そ、そりゃあそうなりますよね!
いやもう本当に仰る通りだと思います。
「最低でした。己の才を過信し、周囲を威圧し罵倒する。父上の顔に泥を塗りつけていたことにすら気が付いてなかった当時の俺を殴ってやりたいくらいです」
「ほお。なぜそう考える」
「……魔法が全てではない。そう言う考え方もあるのだと学びました」
「ではなぜ師事を請う。お前の考え方からすれば、それこそ剣を学ぶ選択肢だってあっただろう。父親のようにな」
ぐ、ぐぎぎ……っ
大人気ねえぞ!
子供の浅知恵くらい見逃してくれよ!
精神年齢三十路近くても身体年齢に引き寄せられてる気がする今の俺は非常に愚かだとしか言いようがない。
考えろ、考えろ俺。
流石にかっこいいから魔法を使いたいはこの人には通用しないぞ。
そんな適当な考え持ってるやつに愛娘ボコボコにされたと思ったらもう腑煮えくり返って殺しにきてもおかしくない。
「俺は……父上のようにはなれないので」
なりたいとは思ってないけど。
でもあの人の後を追うのは無理だ。
剣の才能がないって当時も理解してたし、唯一ある魔法に縋っていた。その結果その力を失ったのはまあ皮肉っていうか、そう言うもんなんだと理不尽さを飲み込むしかない。
だからってわけでもないが……
「レオパルド卿に……」
俺が苦し紛れに放った一言は、どうやら多少の効力を発揮したらしく、僅かに師の動揺を引き起こしたようにも見えた(見えただけ)。
「俺はレオパルド・レオフォードの息子です。ですが、剣の才は無く、真の意味で後継を担うことは難しい」
鷹が鷹を産むとは限らないんだなぁ……
異世界から変なのが来て自分の息子と謎融合してるとは夢にも思わないだろう。
本当にすまん、父上。
でも混ざっちゃったものは元に戻せないからさ。
剣を振るうのはあんまり合わないし、頑張って魔法使いになるからどうか許してくれ。そしてあわよくば戦争が起きませんように。
個人塾の教師とかやりつつのんびりスローライフしていきたいんだ。
「ゆえに、俺の道を歩むと決めました。あの人の背中を追いかけても、俺は決して同じ目線に立つことはできない。──ならば、違う道から、同じ高さまで上り詰めるのだと」
「……それすらも、難しいと知った時。お前はどうする」
「
「……………………は?」
「頑張ります。とにかく頑張って頑張って頑張って、もう無理だって心が十回くらい折れそうになるまでは」
諦める理由がないしな……
辛いってだけなら俺は別に気にならないし。
魔法が全てじゃないけど、俺が今全てを捧げたいのは魔法だから。
「……矛盾している。魔法が全てじゃないんだろう?」
「はい。でも別に、全てを捧げてはいけない理由はないと思ってます」
社会の歯車として稼働しなくちゃ行けない立場では、少なくともないんだ。
なら俺は俺のやりたいように、俺の目指したい道を歩んだって誰にも文句は言われないはずだ。父上に文句を言われるまでは頑張るつもりです。
俺の言葉を聞いて、師はゆっくりと考え込んで、およそ20秒。
「その道は…………いや、なんでもない。お前の覚悟は理解した」
瞠目した後、さらに言葉をつづける。
「最初の問いに答えよう。お前の姉弟子であり、私の娘でもあるエレーナだが」
「は、はい」
来た!
さっきまでのはちょっとした問答でしかなく、俺の本命は最初からこれだった。流石に禍根を残したまま続けていいことが起きるとは思えないんだよね。
俺が大人になった時闇堕ちしたエレーナさんに背中から刺される、とか考えたくないもん。
異世界ならあり得るかもしれないだろ!
「あいつは今、この街から離れた山荘にいる」
「…………え?」
「私の顔を見るのも、嫌なようでな。使用人を数人付けて暮らしている」
「……………………」
「より正確にいうと、そこから出てこなくなって一年が経つ。その理由はわかるか?」
その言葉を聞いてビシリと固まった俺と、苦笑しつつ言ってくる師。
「あ、が…………わ、かります。はい」
「よし、答えてみろ」
「俺のせいですね」
「ああ、お前のせいだ」
師はにっこりと笑った。
「わかるな?」
「はい。なんとかします」
「一度ダメでも諦めるなよ、ええと、なんだったか……『もう無理だと心が折れそうになっても』、諦めることは許さない」
俺は今心底後悔している。
今の発言に関してではなく、過去の行動についてだ。
昔の俺があんなことをしなければ、ああ、そうだ。こんなことにはならなかったはずなのに──
「レオパルド卿の息子ならば、そのくらいやって見せねばな」
「は、ハハ……が、頑張ります。ハイ」
あ〜〜…………
うん、仲良くなれそうだ。
少なくとも恨みや憎しみからではなく、『言ったんだからその程度やってみろ』というニュアンスなのが伝わってきたので、仲は改善していけるのではないだろうか。
師は楽しそうにこちらをみている。
俺は何も楽しくないが?
昔のことを後悔するので精一杯だった。
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