第六話 闇魔法と中二病とコンプレックス
頭から湯気が出そうだ。
それくらい俺は今恥ずかしい。
恥という感情全てが俺に宿ってるかのような感覚。
やけに大きな声で返事をしてしまった時とか、人に見られながら作業してる時に無性に顔が熱くなってくるあの時とか。
「あ゛〜〜〜……完全にやらかした……」
食事を終えてモルドさんに連れられ部屋へとも取ってきた俺は、ベッドにダイブし枕に顔を押しつけゴロゴロ転がっている。
う゛あ゛ー!
何が『俺は……闇に向いていますか? (ニチャア)』だよ。
言動全てが現在進行形で黒歴史を作ってんだよ。
暗黒微笑を使っていいのは女子中学生までだって相場が決まってんだろうが!
『死は、この世界に連れてきてくれた(暗黒微笑)』
「があ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
10分ほど身悶えてから、一息ついて合わせて20分。
「ふう……まあ大丈夫だろあれくらいなら。前のアッシュの方が散々だし」
以前までの俺の方がよっぽど黒歴史なのに今の方が恥ずかしく感じるのはやっぱり価値観の違いって言うか、人格の変化もあるんだろうなぁ。
「それにまだ6歳だから厨二病でも全然許される気がしてきたな」
別に闇に飲まれよとか挨拶にしてないし。
黒いゴスロリに身を包んでるわけでもなく、片手に包帯を巻いてるわけでもなく、眼帯の下をカラコンで染めたりしてるわけでもない。なんだ、この世界の魔法使いとしては標準的じゃないか。
一度冷静になれば後は早い。
思考を切り替えていこう。
先程食らった魔法の感覚を思い出しつつ、俺は復習も兼ねて記憶の整理をすることにした。
「あれが【聖銀級】の闇魔法か……」
強力だ。
あえて聴覚を残したんだろう。
全てを奪う闇魔法なんか撃たれたら一溜りもないな。光もクソもない。魔力すら感じないんだから、あれがあの人の代名詞……とかならいいなぁ。
あれが標準ならもう強すぎる。
そりゃあ忌避感も抱かれるだろう。
上と下の差が激しすぎる。
だって娘の、エレーナちゃんだっけ。
あの子めっちゃ弱かったもん。
黒い触手みたいなの使ってたけど光でピカーって照らしたら消え去ったからね。
聖銀級の娘だって意気込んでそれだったらまあ、混ざる前のアッシュなら調子に乗っちゃうかもな。
だからと言ってやった行為が許されるわけではない。誠心誠意謝るし、死ねという命令以外は一回くらい聞いてやるつもりだ。俺ではない俺が犯人だとしても、アッシュという個人なのは変わらないから。
殴ったら蹴ったりするくらいは受け入れる。
それくらいのことをしてる。
「……しかし、あれ娘にもやってんのかね」
だとしたらかなり鬼畜だ。
死ぬ恐怖をこの年齢の子供に押し付けるのは相当だぜ?
……だから忌避されてるってのも、あるのかもな。
ただの偏見だけじゃなく。
魔法使いにとっての常識が、常識として通用してない可能性もある。
まだまだ俺はこの国のことを知らないから、これからもっと知って行きたい。失敗しないためにも、何もかもを調べて学ばなくちゃ。
「……もう、失敗しちゃダメだぜ。アッシュ・レオフォード」
自分に言い聞かせる。
過去の過ちはしょうがないものとして、これから先失敗する訳にはいかない。日本と違って戦争が身近にあって、人同士での殺し合いが発生するこの世界で油断や慢心なんて出来るわけがない。
そのたった一つの行動が、未来で俺を死に至らせる可能性がある。今みたいにな!
最悪だよ。
才能が無くなるとは思わないじゃん普通。
光と雷さえ残っていればこんなことには……おのれ神様! よくもこんな仕打ちをしてくれたな!
「は〜、強くなりてぇな……」
自分で思っていたより俺──いや、アッシュ・レオフォードはコンプレックスを抱いて生きていたらしい。
父親の威光、比べられ続ける日々、魔法で成り上がったところでと小馬鹿にしてくる剣士。
周囲にいた取り巻きもアッシュのことを慕っていたわけじゃなく、あくまでレオパルド・レオフォードの機嫌を損なわないために追従していただけにすぎない。
大人としての経験が混ざり合った今、それくらいは記憶だけでも理解できる。
そしてアッシュは天才だった。
だからその程度の事はわかっていて、それが余計にコンプレックスを刺激していたと。
「お前も大変だったなぁ」
だからと言って他人を害していい訳じゃない。
その倫理観と道徳は流石に異世界では培えなかっただろうが、今は俺になったからな。
もうそんなことは二度としない。
誓っても良い。
だから出来れば許してくれると嬉しいんだけど。
半年間みっちり爺さんに教えてもらった魔力操作を反復していく。
前はこんな事しなくても余裕だったんだが、どうやら適正にやってその、細かいやり方が変わるそうだ。
そんなことある?と俺も思った。
実際に試したらマジだった。
光魔法の時の感覚でぼんやりやると全然上手くいかなくて、全体的な基礎となる魔力操作とそれぞれの魔法に適したやり方の相違点を埋めるので精一杯だった。
しょーがない。
才能に満ちていたアッシュはもう死んだから。
そう思ってトレーニングに励むことおよそ半年で、やっとのことで闇魔法の基礎を習得した俺はなんとも情けない姿だろう。
一年前のアッシュくんが見たら泣いちゃうんじゃないか。
「……ま、でも。まだまだこれからだろ」
当面の目標は強くなること。
そのためにヴィクトーリヤさんに弟子入りしたし、過去の罪を償う覚悟もした。
頑張っていこう、アッシュ・レオフォード。
未来はまだまだ明るいぜ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます