思春期の少年の心情描写

B-第01話:沈む夕陽に想いをよせて

 窓から入る夕陽が瞳に映る。今日といういう日が過ぎ去っていく。今という時間が過去に飲まれ、未来と言う希望が今という現実に置き換わっていく。今日、僕は何ができたのであろうか?


 あおい空は、夕陽によってオレンジ色に染まり、黄金色の希望に満ちていた僕の心は、可憐かれんな明るい水色に染まる。まるでそこにあった希望を忘れさせるような、忘れな草のような、白々しくて、悲しく、不気味なくらい澄んだ水色によって。


 これから空は夜が支配していく、空は闇に飲まれていく。そして僕の一日も、過去と言う闇にのまれていく。僕は、心の中で、今日起きたことと気持ちをぽつりぽつりとつぶやき始める。


 でも、それが何の意味を持つかはわからない。それが何につながるかもわからない。ただ行先が分からない列車にのって、なすがままにどこかに行ってしまうような、漠然とした毎日をただ過すだけ。潤いのない心の中を、僕はただ彷徨さまよい、心の飢えと渇きにただ耐えるだけの毎日を過ごすだけ。


 砂漠で遭難した旅人は、ただ漠然とオアシスを求めて彷徨さまよい歩く。希望の光を失った旅人は、ただ漠然と闇の中で、無限に広がる闇の中で、光を求め彷徨さまよい歩く。そして、僕の心も行き場を失い、ただ漠然と心の置き場を探し彷徨さまよい歩く。


 僕は、僕の心は苦しいという悲鳴をあげる。僕は明日に進むため、大丈夫、ただ大丈夫と心の中で繰り返す。でも、僕は、それが大丈夫でないことを知っている。でも、そう思わないと生きていくことができないことも知っている。明日という現実は、僕にその生き方しか許してくれないのだから。


 という残酷な麻薬は、僕の心を、信じられないスピードでむしばむと、僕の心の痛みは、信じられないスピードで麻痺まひしていく。まるで末期がんの転移のように……。


 目の前で起こる残酷な日々、ただ笑って過ごすだけの日々、心の痛みを失っていくだけの無機質な日々。そんな僕の毎日に何の意味が残っているのだろうか?


 世の中すべてのことに意味なんてないかもしれない。意味は造るだけのものかもしれない。でもそんな造られた意味というになんの価値が残っているのであろうか?


 僕が心の中でぽつりぽつりと紡ぐ言葉は、ぽつりぽつりとした涙に変わり、僕の頬をらしていく。この漠然と過ごす毎日が、僕の命を削っていく。実感としてそれがわかる。そして、この感覚が、人としての僕を殺していくことがわかる。


 でも、僕の心は、この現実に痛みを感じることができない。鈍いナイフで僕の心は切りつけられているのに、僕の心は痛みを感じることができない。そう、これが大人になるということなのだ。


 僕は、これから、多くの大人がそうするように、この麻痺まひした心を満たすためだけに愛を求めて生きるのかもしれない。そして、僕は、そんな心を満たす愛に巡り合えるかもしれない。でも、僕は、その愛を受け入れることはできない。なぜなら、僕の心には、人を愛する力が、もう残っていないのだから。


 夕陽は地平線に沈み、空を覆うのはかすかな残照のみ。この先、僕の心に希望という残照はいつまで残っていてくれるのだろうか? このかすかな残照がなくなった時、僕はちゃんと前を向けているのだろうか?

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