第18話 悠ちゃんと優依ちゃん③
数時間待つことになるのだけど、果たしてどうしたらいいものか。
人間橋となって頑張っている全日本負け組救済機構のメンバーのことを考えると、僕も待たなければいけないのかもしれない。
が、魔央は「眠くなってきましたね」と正直だ。
彼女は破壊神だ。一般人の努力など、彼女の前では無力極まりない。
道を歩き回るアリンコのようなものだ。
「おやすみ」
魔央を寝室に送り出し、僕はひとまず待つことにした。
とはいえ、ただ数時間も待つのはやっぱり大変だ。
「大変だね」
手前で橋になっている一人に語り掛ける。
「全然たいしたことはありませんよ。少しでも負け組の待遇が良くなるのなら、この程度のことは屁でもありません」
殊勝な答えがかえってきた。
いつもこのくらい頑張れるのなら、負け組にならずに済むのではないか。
そんなことを考えてしまう、僕は認識が甘いんだろうか?
「でもさ、千瑛ちゃん」
『何かしら?』
「天見優依を呼んで、何をするわけ? アル・ヤタハカムの計画を潰すことができるの?」
『できるわ。既に私は、ハッキングをして、明日の新国立周辺から神宮球場の使用許可を得ているの』
何やら物騒な言葉も入っているけど、聞こえなかったことにしよう。
要は新国立の周囲を使えるようにしたらしい。
ということは、そこでライヴでも開くのか。
『ま、ここは私に任せておきなさい。必ずうまくいくわ』
千瑛ちゃんが自信満々に言う以上はそうなるのだろう。
僕が首を突っ込むことではなさそうだ。
ただ、それとは別に気になることもある。
「もう一つ聞いていい?」
『質問が多いわね。何なの?』
「七使徒というけど、能力格差がすごくない?」
七使徒というからには基本的には同格のはずだ。
しかし、実際にはどうだろう。優依とか千瑛ちゃんは無敵という感じすらある。
堂仏もかなりヤバイ。
それと比較すると、川神先輩や山田さん、木房さんはもちろんヤバイけれど、かなり穏やかな感がある。四里泰子に至っては「強いのか?」とすらなりそうだ。
『多分、残りの四人にもまだ秘められたものがあるのよ。作者の見込み違いまで、私に聞かれても困るわ』
なるほど、確かに。
堂仏都香恵が強すぎて、そこのマイナーダウン化ばかり考えていて、結果的により強すぎた知恵と希望を放任してしまったのだろう。
雑談をすること二時間。
遠く水平線の彼方からバイクの排気音が聞こえてきたような気がした。
『戻ってきたようね』
「えっ、もう?」
『堅固を舐めてはいけないわ。彼女の集中力は全世界100億の人類の中でもトップなのよ』
「そ、そうなんだ」
そんな凄い集中力があるなら、別のところに活かしてくれてもいいんじゃないか、という気もするけれど。
数分もすると、バイクが明らかに見えてきた。
マッハを超える速度で走っているだけあって、あっという間に迫ってくる。あれだけの速度で下にいる人間橋の人は痛くないのだろうか。
ともあれ、もう数十メートルに近づいてきた。
山田さんの後ろにしがみついているのは、間違いなく天見優依だ。
彼女が突然後部座席から立ち上がった!
「悠ちゃん!」
「わっ! 危ないよ!」
優依はバイクからいきなり僕の方へ飛び出してきた。
軽やかに舞い上がった体が、僕の真上に正確に放物線を描く。
近づくにつれて、爽やかで軽い香りが漂っているように思った。
それを自覚するか、しないかというタイミングで、ずっしりとした重みが伝わる。
「会いたかったよ! 悠ちゃん!」
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