第17話 ブラジルまでの道
『堅固の使徒・山田狂恋』
「何かしら?」
『そろそろ今回の件にカタをつけたいわ。協力してもらえる? それとも、一億ドルの方が大切かしら?』
そういえば、山田さんと須田院はアル・ヤタハカムから一億ドル貰っていたんだっけ。
あと、川神先輩はそのルートでボイスターズのスポンサーを増やしていたはずだ。
うぅむ、改めて考えると、アル・ヤタハカムの資金力は恐ろしい。
『たいしたことはないわ。石油王の資金力は厄介だけど、アル・ヤタハカムの計画を潰すのは簡単よ』
「えっ、そうなの?」
「そうよ。そのために山田狂恋と木房奈詩の力を借りたいのだけど、どうかしら?」
千瑛ちゃんが山田さんの返事を待つ。
山田さんは「フッ」と笑い、ジャキーンと銃を構える。
「私はいつだって時方君のために動くのよ、知恵の使徒。何をすればいいのかしら?」
『銃ではないの。貴方のバイクが必要なのよ』
「……?」
『アル・ヤタハカムの野望を頓挫させるには優依ちゃんの力が必要よ。だけど、優依ちゃんは今、ブラジルにいるの』
「遠いね。液晶ではダメなの?」
『今回の野望を片付けるには優依ちゃん自身が必要になるわ。だから今晩中にブラジルから来てもらう必要があるの』
「えっ? 今晩中は無理でしょ!」
ブラジルから日本までは18000キロくらいあるらしい。
ただ、直行便はないから、一日以上かかると聞いている。直行便はプライベートジェットを使ったとしても、20時間はかかるという。羽田か成田か分からないけど、空港についた後、ここまで来るだけでも更に時間がかかるし。
今晩中に戻ってくるというのはどう考えても不可能だ。
「時方君、不可能なんていうのは凡人が言うことよ」
「えぇっ?」
「私のバイクなら最高速度でマッハ5まで出せるわ」
何なの、その宇宙組織が持っていそうなバイクは。
でも、バイクだと道がないよ。
『道は博愛の使徒に作ってもらうわ』
「木房さんが?」
「ワタクシめの出番でありますね!」
うわ、いつの間にか木房さんが後ろにいた。
『人間橋を頼みたいの。いいかしら?』
「任せるであります!」
「人間橋?」
『一部の少年漫画の世界にあるでしょ。人と人が絡み合い、橋を作るという話が。博愛の使徒は10億をこえるメンバーを抱えているわ。彼らが一体となってブラジルと日本を繋げる橋を作り、その上を山田狂恋がバイクを飛ばすのよ』
「……」
いや、10億の人間が橋を作るだけで一日以上かからないか?
山田さんもマッハ5まで出るバイクを作れるのなら、いっそ空も飛べるようにすればいいのに。
僕のツッコミは通じない。
一時間後、全日本負け組救済機構のメンバーが一斉に橋を作り出したらしい。
どういう理屈でそうなっているのかは知らない。
ただ、確かに日本・ブラジル間に橋がかかった。
「それじゃ行ってくるわね」
山田さんがバイクに乗って、橋の上を飛ぶように走っていく。
あっという間に山田さんの姿は見えなくなったが、この後、ブラジルまで行って天見優依を拾い、戻ってくるわけだから、橋の人達はあと数時間は頑張る必要がある。
筋肉とか大丈夫なのかな?
「心配無用であります。負け組の結束は巌のごとしであります。数時間どころか一日でも三日でも耐えてくれるであります」
そういうものなのか。
そこまでの力があるなら、負け組脱却できるんじゃないのかなぁ?
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