第16話 悠ちゃんと優依ちゃん②
『この写真を見なさい』
と言って、千瑛ちゃんが端末に映し出したのは、二人の幼児が並んでいる写真だった。三歳くらいで、お互いが楽しそうに笑っている。
「あら、可愛い子供達ね」
山田さんが楽しそうに眺めた後、「あれ?」と言う。
「右の子、もしかして時方君じゃないの?」
「うん? 僕?」
と言われても、三歳の自分がどんな姿だったかなんて覚えていない。
ただ、どうやら僕らしい。着ているズボンにワッペンがついていて、そこに『YUU』と書かれてあるからだ。
その隣にいるもう一人の子にもワッペンがある。
そこには『YUI』とあった。
「えっ……?」
この展開、もしかして……
『ようやく思い出したのかしら? 小さい頃、双子の”あぬ”がいたことに』
「あぬ?」
『優依ちゃんには性別がないのだから兄でも姉でもないわ。だから、中間をとって「あぬ」なのよ』
「何か間抜けだよ。その響き……」
と言いつつも、確かに幼少の頃に兄弟がいたことはうっすらと記憶にある。
『本来はね。破壊神の対になる存在は世界を救うようなキャラクターの持ち主だったはずなのよ。だけど、時方家に生まれたその子はまさかの双子になってしまった。で、一人は明るくて優しい太陽のような唯ちゃん。もう一人は暗くて突き放したところのある月のような悠ちゃんという対照的な二人になってしまったの』
「僕に対する評価が酷すぎない?」
まあ、全く間違っているわけではないけれど。
『しかも皮肉なことに暗くて救いがたい悠ちゃんの方が、破壊神の対になる存在、世界を救える存在だったのよ』
「僕が暗くなったのは、千瑛ちゃんが死んだこともあったんだけど……」
『あら、私のせいにするわけ? それなら、私は幽霊として生きているのだから明るく戻ればいいのではないかしら?』
「……くっ。で、天見優依……時方唯はどうなったの?」
『時方悠は世界を救うべき存在として、慎重に育てる必要があった。そんな彼に、圧倒的に明るく世界を楽しくできるような”あぬ”がいることは悪影響だと思われたの。だから、唯ちゃんは遠縁の天見家に預けられたのよ』
そこで溜息をついた。何か苦労したことを思い出したらしい。
『唯ちゃんのアイドルとしての力は六歳くらいの頃から圧倒的だったわ。だから、ジャッキー南川とか春高康も契約をしようとしてきたの。そこから先は苦労したわ』
「そうなんだね……。いっそ、僕がいなくて、優依だけだったらよかったのかもしれないね」
『何を言っているのよ。優依ちゃんは、どれだけちやほやされていても、悠ちゃんのことを忘れたことは片時もなかったのよ』
「そ、そうなんだ……。僕はすっかり忘れていたから申し訳ないな」
『特に私が死んで以降、悠ちゃんが目に見えて落ち込んだと聞いて心を痛めていたわ。だけど、優依ちゃんは自分が成功することで、悠ちゃんを助けられると頑張っていたのよ。だから結果として、どんどん暗くなる悠ちゃんと、どんどん明るくなる優依ちゃんと更に格差がついたわけだけど』
君は僕を励ましたいのか、更に突き落としたいのか、どっちなんだ。
『ま、そういうことなのよ』
「分かったよ。だけど、もう少し早く教えてくれても良かったんじゃないの?」
『何を言っているのよ。早い段階で伝えてみせなさい。双子の”あぬ”との格差を思い知って、人生絶望して自殺していたかもしれないでしょ』
「そこまでは行かないよ」
『悠ちゃん、貴方、自分の暗さと冷笑的な態度を随分と甘く見ているのね。以前の悠ちゃんなら、それこそさっき言ったみたいにいらない双子として生まれるべきではなかった、と自殺していたかもしれないわね』
「……」
まあ、全くあり得ないとは言えない。
『でも、ここに来て、黒冥さんや私と優依ちゃんを除いた使徒達と付き合うようになって、自信が回復していたのは感じたわ。太陽とバクテリアくらいの差があった状態から、太陽とアリくらいまでには近づいたから、優依ちゃん慣れすれば大丈夫だろうと踏んだのよ』
「優依ちゃん慣れって……。あと対比があまりにも酷くない?」
ただ、話をしているうちに気づいたことがある。
僕が天見優依の能力を受けても動じるところがなかったのは、僕と優依が双子だったからなのだろう。
というか、彼とも彼女とも言えないとなると、どう表現すればいいんだ?
『ちなみに、みんなを明るくするのは優依ちゃんにとっては簡単なことだけど、絶望させる方で希望を動かす能力を発動するのはかなりの力を使うみたいなの』
「そうなんだ」
ジャーブルソンのオクセル・ブロットや、ボイスターズの選手達の時にはそういうことがあったわけね。
『その力を回復するには悠ちゃん成分が必要なのよね』
「僕の成分?」
『以前、裸踊りさせたり、涎垂らして素っ裸で寝ているところを写真に撮ったりしたのは、優依ちゃんの脳力を回復させるためだったのよ』
「いや、ちょっと待って! 裸踊りはともかく、二つ目は聞いてないんだけど!?」
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