第13話 新居千瑛と天見優依②
「教育ですか?」
三人が千瑛ちゃんに尋ねている。
『そうなの。私が見るところ、悠ちゃんには優依ちゃんを応援しようという意思が全くないわ』
「「「えぇぇっ!?」」」
『おまけに、以前はMA-0に優依ちゃんのシークレットデータまで調べさせようとしていたのよ。おかげで、私はMA-0を破壊せざるをえなくなったわ』
何? その、僕のせいでMA-0が破壊されたみたいな言い方は。
「確かにそうでした。時方君の依頼を受けたことでMA-0が……、MA-0が」
須田院がよよよと悲しみ始める。
「悠さん、どうして? どうして、そんな酷い生き方ができるんですか?」
「酷い生き方って……」
「時方様は人生の楽しみを8割放棄しているであります。ここまで退廃的な人だとは思わなかったであります」
「そうね。今にして思えば、最初にボイスターズの試合を観戦しに行った時から変だったわ。ボイスターズの選手達の異変は優依ちゃんのせいじゃないかと言い出したわね」
うわ。先輩、バッチリ記憶していた。
魔央も木房さんも酷すぎない?
『私が設計した特別室があるの。そこで試合までの二日間、悠ちゃんを教育したいから、みんなに協力してもらいたいのだけど、いいかしら?』
「イエス! マム!」
最初の三人に加えて、須田院、堂仏、四里の三人まで敬礼している。
そ、そうだ。山田さんだ。
山田さんだけは、天見優依のことを疑っていた。
助けて、山田さん!
「……さあて、明日に向けてライフルを調整しないとね。えーっと、この銃の目盛り状況は、っと」
「この裏切り者~!」
叫ぶ僕をヤスオがヒョイッと掴んだ。更にオランウータンのウータンまでついているから、もうどうしようもない。
僕は鉄格子の箱の中に入れられて、ヤスオ達に連れられることになった。
ワゴン車に乗せられ、運ばれたのは千葉県の外房地域のようだ。
砂浜が見えるところに、一軒家が見える。
『あれが特別室よ』
千瑛ちゃんが言う。
外から見る分には普通の家だけれども……
中に入ると、すぐに分かった。
天見優依のステッカーやポスターなどがいたるところにある。
食器一式も全部タイアップ商品のようらしい。
『優依ちゃんがタイアップした商品は億を超えるわ。優依ちゃんグッズだけで、人は十分生活できるのよ』
枕や布団は普通だけれど、近くの壁に商品ポスターが飾られていて、そこには天見優依が「この布団と枕で寝れば、ツアー中も全く疲れません!」と笑顔で語っている。
『ま、みんな疲れたと思うし、ご飯にしましょう。食堂に移動してちょうだい』
言われた通りに食堂に行くと、天見優依のTシャツ姿の給仕達が食事を作っていた。
席について程なく、ハンバーグステークにコーンスープ、サラダが出て来る。
『このご飯は、皇室に献上する農場の隣で作られた特別なお米で田植えは優依ちゃんがやったのよ。このお肉は優依ちゃんが選んだ肉牛の娘の肉で、極上の味がするわ。そしてスープは……』
やめて!
そういうフランス料理やイタリア料理の一度聞くと忘れるような説明はやめて!
しかも、全部天見優依が絡んでいるって何なの?
ご飯は美味しかったけれど……
『悠ちゃんにはこれから寝る時以外は優依ちゃんのブルーレイを見てもらうわ。これで洗の……ゴホン、優依ちゃんの真の姿を理解してもらうのよ』
今、ぽろっと本音を言いそうになっていない!?
『みんなには悠ちゃんが逃げないように見張りをしてもらうわ』
「「「「「「イエス、マム!」」」」」」
みんな、サインが欲しいからやる気十分のようだ。
それはつまり、僕が洗脳されるしかない、ということを意味している。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます