第12話 新居千瑛と天見優依①

 エレベーターでフロントに終わると、携帯が「ピロン」と鳴った。


 開いてみると、アル・ナスィアルからのメールが届いている。


「二日後の試合チケットを送っておくよ」


 ということだ。



 一体、どこで僕のメールアドレスを知ったのだろうと思ったけれど、一流企業にも攻撃をかける計画をしている連中だ。僕のメールアドレスくらいどうということはないだろう。



「みんなも行くの?」


「私は警護要員として参加するわ」


 と答えたのは山田さんだ。


 なるほど、山田さんはそういうことにも詳しそう? だし、不慮の事態が起きても大丈夫そうだね。


「もし、観客が乱入するようなことがあれば、即、射殺するように言われているから時方君も気を付けてね」


「乱入なんかしないよ。行くかどうかも分からないし」



 スポーツにしてもライヴなんかにしても、現地会場に行ったことはほとんどない。


 しかも、最近は海外のサッカーチームが日本に来て、ものすごく高い入場料を設定するから、高い席は空席も多いという話もある。


 満員だと、それはそれで動きづらいけれど、ガラガラのところに行っても面白くないよね。



「人数の点は問題ないわ。私が神官戦士団を送り込むもの」


 川神先輩が言う。


 神官戦士!?


 何なの、その響き。十字軍か何か起こすつもりなの?


「いつもいるボイスターズ応援団よ。一万人は用意できるわ」


「それは凄いけど……」


 先輩お抱えの応援団、数は多いけれど、いたからチームが勝つわけでもないからなぁ。



「あ、そうだ。須田院さん」


 先輩と話していて、武羅夫のことを思い出した。


「服部武羅夫なんだけど、部下の忍者達とともにまた浄化されちゃったみたいで、何とかならないですか?」


「また浄化されたの? 一体、誰に?」


「いや、先輩に……」


 僕が答えると、先輩は「えっ!?」と声をあげる。


「この前、久しぶりに最大出力の制御練習をしていたら、急に飛び込んできた虫みたいなのがいたけど、あれが服部君達だったわけ!?」


 武羅夫達、まさかの、飛んで火にいる夏の虫認定……。



 須田院は表情を曇らせた。


「MA-0はまだ復活できていないのよ。最終調整に入っているから、あと一か月くらいかかるわね」


「一か月ですか……」


 仕方ない。一か月の間、武羅夫の不在は我慢しよう。


「というより、MA-0を破壊した知恵の使徒がいるのですし、彼女に任せたら良いのではないですか?」


「そういえば……」


 MA-0が破壊されたのは、須田院に頼んで天見優依のことを調べてもらおうとして、千瑛ちゃんの逆鱗に触れたからだ。


 そうそう、今までバタバタしていて天見優依のことも聞けなかったから、この機会に聞こう。


「できる?」


『……MA-0が出来たのなら、私にも出来るとは思うけど、クローン作製はやったことはないわ』


「あと、千瑛ちゃんは天見優依とはどういう関係なの?」


『あら、言っていなかったかしら? 私は彼女のマネージャーなのよ』


「マネージャー!?」


 幽霊兼AIがマネージャーをやっているの?


 いや、まあ、千瑛ちゃんならスケジュール管理とかは完璧にやりそうな気はするけれども。


『だから、優依ちゃんのことを探り回る連中は排除しているわ』


「だからと言って、完膚なきまでに破壊しなくても……うわっ!」


 急に突っ込んできた三人組に僕は突き飛ばされた。


「千瑛さん! 私、優依ちゃんのサインが欲しいです!」


「新居様! ワタクシも欲しいであります!」


 魔央に川神先輩、木房さん、四里が僕のスマホを掴んで、お願いを始める。


『構わないわ。ただ、一つ条件があるのだけど、いい?』


「「「何でもやります!」」」


 三人の声がはもった。



『悠ちゃんを教育してほしいのよ』



「えっ?」


 千瑛ちゃんの言葉に、三人の視線が僕の方に向かった。

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