第11話 再会を約して?

 それからしばらく、アル・ナスィアルのアメリカ批判を聞かされることになった。



 ほとんど右から左に聞き流しているのだけれど、彼らが僕を評価する理由、つまり僕の価値というものは理解できてきた。



 僕と魔央という存在を抱え込めば、世界に対して大きな圧力をかけることができる。「自分達の言うことを聞かなければ、破壊神が世界を滅亡させるぞ」と言って要求を利かせることもできるわけだ。みんな、言うことを聞くしかない。


 だから、彼らにとっては僕と魔央が協力するならば10兆ドルだって惜しくないということになる。それ以上の見返りを引き出すことができるわけだから。



 それに10兆ドルなんて貰っても、使いきれるわけがないだろうしね。


 彼らが「これをした方が儲かるよ」というような方向に9兆ドルくらい任せることになるのだろうから、名義人の名前が変わるだけで中身はまるで変わらない。

 ある程度以上までは実際の支払が生じるのだろうけれど、それ以上については書類上の動きだけ、そういうことなのだろう。



 そうこう考えているうちに、話が終わった。


 結局、何を言っていたのかほとんど覚えていないけれど、まあ、とにかく彼らは彼らの信じるもののために動いている、ということで、その一環として今回の話もあるわけだ。


 そこに突っ込んでいっても仕方ないし、神でもない僕があれこれ評価するべきものでもないのだろう。


「今すぐに答えを出す必要はないよ。そうだね、二日後の土曜日にアル・ヤタハカムが国立競技場で親善試合をする。その試合に招待するから、その時に答えを聞かせてくれたまえ」


 アル・ナスィアルはそう言って、ジェラルミンケースを指さした。


「答えに関係なく、あれは持っていってくれたまえ。あくまで挨拶なのだから」


 そこまで言われると、受け取らないわけにもいかなさそうだ。


 ただ、1億ドル入りのジェラルミンケースは重いし、持っていると物騒だ。


「それならヤスオに持たせたらいいんじゃないかな? アル・ナスィアルさん、ここにマウンテンゴリラを連れてきたいけど、それでもいい?」


 堂仏都香恵が言い出した。


 確かにヤスオなら軽々持つだろうし、迂闊に取ろうとすれば大変なことになる。


「ま、マウンテンゴリラ?」


 さすがのアル・ナスィアルも目を丸くした。


 歴戦の強者で、世界屈指の大富豪といえども、堂仏ワールドについていくのは困難なようだ。



 アル・ナスィアルがホテル側にかけあって、しばらくすると直通エレベーターが動き出す。多分、ヤスオと偵察隊のカラス数羽がくっついているんだろう。


「そうそう」


 エレベーターを待つ間、アル・ナスィアルが何か思い出したようだ。


「世界秩序というとだね、インドの聖人ナンナンダー・コーノ・ハナシワーも来日中だ」


「インドの聖人?」


 ……頭のてっぺんに豆みたいなものをつけて、ひたすらガンジス川で水浴びしている半裸の人のイメージが湧いてきた。


「一度会って話をすることをお勧めするよ。彼と私達の目指すものは異なっているが、世界に新しい秩序が必要だという点では一致している」


「そうなんですか……」


 正直、これ以上の面倒ごとは勘弁してほしいけれど、彼らクラスになると多分嫌だと言っても会いに来るんだろう。


 諦めるしかない。




 エレベーターが上がってきた。


 ヤスオとホテルマンがいるのかと思いきや。


「あれ、みんな?」


 何と、そこには川神先輩に山田さん、四里泰子に須田院と勢ぞろいしていた。


 よくよく考えれば、彼女達はアル・ヤタハカム側に回ったのだから、ここにいるのは不思議ではないのか。


 とすると、この後、二日間、この四人からも説得を受けることになるのだろうか。



 それは面倒だなあと思いながら、僕はヤスオにジェラルミンケースを渡してエレベーターで下へと降りていった。

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