第7話 攻撃開始?

 チーン!


「では、一週間以内に日本政府から振込があるということで請求書を発行しておきました」



 最果村で宿を失った僕達は、魔央の屋敷に泊まったのだけど、そこは幽霊やポルトーガイストが客の宿泊費を決めるという恐るべきシステムの宿だった。


 僕はつとめて紳士的に振る舞ったのに、そばをうろついていた幼馴染の幽霊兼AI・新居千瑛が周りに喧嘩を売っていたらしい。


 しかも、彼女がいるので幽霊もポルトーガイストも部屋に放火するという手段も取れず、過去最高額の請求となってしまったのである。



 幸い、僕という存在自体が「世界を救うために必要だ」と思われているので、石田首相に相談して、政府に建て替えてもらうことになった。


 助かったのだけど、こんな感覚に慣れてしまうと、湯水のように税金で遊興なんていう最悪の存在になりかねない。気を付けないと。



「どうしてくれるんだよ!」


 僕は無人の庭で叫ぶ。


 傍から見ると変な奴と思われるかもしれないけれど、僕はおかしくなって叫んでいるわけではない。新居千瑛に対して叫んでいるのだ。


『……悪いことをしたわ』


「いや、そんなものじゃないよ。日本政府と繋がりがなかったら、破産するところだったよ……。こんな額を請求されるって、幽霊に何を言っていたわけ?」


『生前のスリーサイズとか、どうでもいいことを聞いてくる連中がいたものだから、成仏するまで存在意義の下等さを説いていただけよ』


 幽霊にもセクハラやパワハラが存在するのか……。


 あと、「成仏するまで下等さを説いていた」って何か凄いフレーズだ。


「ということは、ここにいた幽霊を何人か成仏させたわけ?」


『30体くらい成仏させたわね。こういうところにこそ、川神聖良の存在が必要なのよ』


「川神先輩がいたら、億でも済まなくなるよ」


 というより、仲間を30人失ったことに対する慰謝料と考えれば、1633万は安い方じゃないだろうか。




『悠ちゃんに多額の出費をさせた代償として、アル・ヤタハカムの件は協力してあげるわ』


「あっ、そうなの。それは助かるけど、どうすればいいんだろう?」


『もっとも簡単に崩壊させる方法は、チームやスター選手達の闇を明るみにすることかしら。ネットは悪用しようと思えばいくらでもできるけど、悪用をする者は、悪用されることだってある、ということを理解させるのよ』


「スター選手達の闇か……」


『ファンはスター選手に幻想を見るけれど、実際にはただサッカーが巧いだけで、聖人君子でも何でもないわ。どちらかというと明るみにしたらまずいことの方が多いわね。例えば、ハンサムナ・イ・イイケメンだけど』


「何かあるの?」


 彼はサッカーもうまいようだし、あの見た目だ。非の打ち所がないように見えるけど。


『男としてはかなり問題ね。女性の守備範囲が10歳以下か70歳以上だもの』


「ブフォッ!」


 またコーヒーを噴出してしまった。これで今日、二回目だ。


『だから浮いた話もほとんど出ないという点では、アイドル選手とも言えるわね』


 なるほど、若い女の子には無関心だから、スキャンダルとは無縁なわけか。


 本人は子供とお婆さんが大好きだけど、まさかそういう変わった性癖だとは気づかないだろうから、子供やお婆さんとスキンシップしていてもファンサービスの一環と思うだろうし。


『でも、可愛い子供達にファンサービスしている時なんか、内心はハァハァしているわけ。もしも抱っこなどしようものなら、どことは言わないけど体の一部が鉄のように硬くなっているわ』


「うわぁ、最低だ……」


 そんな情報が出されたら、確かにみんな幻滅しそうだ。


『そういう情報を一気に流出させてみましょうか。そうすれば、他の選手達もワリドアラビアに行けば、良くない情報が流出されるってビビるだろうし』


「そうだね」


『自分達がそういう行いをしているから、流出されるだけなのに、ね。悠ちゃんも気を付けた方がいいわよ』


「うっ、こ、心しておくよ」



 何とも恐ろしいことを言い残されて、千瑛ちゃんはネットの中に入っていったようだ。


 僕にはそこまで変な性癖はないと思うけど、全て丸わかりになってしまうかと思うと、不安だなぁ……。



 あっ、そういえば。


 以前、全く逆のことをした時、つまり須田院に天見優依のことを調べようとした時、千瑛ちゃんが怒ってMA-0を破壊したことがあった。



 千瑛ちゃんと天見優依の関係はどういうものなのだろう?

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