第4話 許婚の屋敷は注文が多い①
武羅夫と忍者軍団がいなくなり、僕達はファンのふりをして、アル・ヤタハカムの練習を見ている。
どうやら、最果村にスターチームがいるということが知られてきたようで、ちらほらと別のファンも見るようになった。エイマールをはじめとしたスター選手も、気さくにサインなどに応じている。ついでに何かのカードも配っていた。
カード内にあるQRコードを読み込むと、色々な特典があるらしい。
それだけを見ると、ファンサービスの良いチームということになるけれど、ひょっとしたらそこからも色々情報などを取られてしまうのかもしれない。
「時方様、あそこに随分と輝いている選手がいるであります」
木房奈詩が指さした方向には、確かに小さな星のようなものがちりばめられて輝いている。双眼鏡で確認すると。
「おぉ、すごい美男子だ!」
見たこともないような美男子の選手が談笑していて、その周囲に星が輝いていた。
入り口で配られていたチーム名鑑を調べてみると、ハンガリー代表のハンサムナ・イ・イイケメンという選手らしい。22歳で180センチ。サッカー選手としては未知数みたいだけど、とにかくカッコいいようだ。
「滅茶苦茶イケメンの選手がいるよ」
木房さんに双眼鏡を渡す。てっきり喜ぶかと思いきや。
「おのれぇぇぇ、天は何故こうも格差をつけるのでありましょう。会員の皆、奴を呪うであります!」
何故か呪い始めるあたりは木房さんならでは、というところだろうか。
「どうだろう。ヤスオ(マウンテンゴリラ)の方がイケメンだと思うけど」
堂仏都香恵もこういうところではセンスが狂っている。
ひょっとして、僕のサイドには間違った人間しかいないのでは。
そういう気がしてきた。
その日はそれで終わったけれども、クロス(旧シイッター)を見ているとトレンドに『アル・ヤタハカム、極秘練習』とか『アル・ヤタハカム、最果村』が上がってきている。
「この様子だと、明日は今日以上にファンがやってきそうだね」
「その前に、おまえは今日、どこに泊まるつもりなのだ?」
十兵衛爺さんが聞いてきた。
「どこって、バス停前のカプセルホテルに……」
「あのホテルは、ファン供が貸し切りにしておる。おまえの予約はなくなってしまった」
「えぇっ!? 予約がなくなったって、どういうこと!?」
驚く僕に、魔央が村の中心部を指さした。
「村長さんがキャンプの間に多くの人に来てもらいたいって、村内の宿泊施設はアル・ヤタハカムのサポーターズクラブ会員優先にしてしまったんです。今日だけで40人来ていますし、急遽駆けつけた報道陣もいるので、予約取り消しになったみたいですね」
そんな横暴な!
予約取り消しって滅茶苦茶でしょ!
「最果村は年間観光者数が12人だ。観光客に喜んでもらおうという発想は全くない。20人30人の団体旅行なら話が変わるかもしれんが、がおぬしと木房嬢しかおらんのでは、のう」
「いや、堂仏都香恵も……」
「ボクはゴリラやツキノワ軍団と過ごすから、気にしなくていいよ」
確かに彼女には、人間の宿はいらなかった。
何てことだ……
僕達はとりあえず抗議のためにバス停前のホテルに向かった。
しかし、ホテルの人間は「嫌なら裁判でも何でもすればいいんじゃないのかい? 受けて立つよ」とものすごく好戦的だ。
くっそぉぉ、何て奴らだ。たかだかホテル一泊のために裁判なんか起こせないと分かっていて、舐めてかかっている。悔しいから、インターネットのサイトに文句を言おうかと思ったけれど、
『アル・ヤタハカムのサポーターなら優先してくれるんです! 便利です!』
サイトにはサポーター達の絶賛であふれかえっている。僕はとことんまで少数派に回ってしまった。
石田首相に頼もうかと思ったけれど、それはそれで反則のような気がする。
策が尽きた……。
あれ、そういえばシンプルなことを忘れていた。
「魔央はこの村に屋敷があるんだよね?」
「はい。ありますよ」
「そこで泊めてもらえないかなぁ?」
許婚とはいえ、まだ深い関係でもない魔央に頼むのも気が引けるが、この村の名門らしいから、屋敷も広いはずだ。
木房さんや堂仏の部屋もあるんじゃなかろうか?
魔央は困った顔をした。
「泊めるのは構わないと思うのですけれど、私の屋敷も一階部分が旅館になっていまして」
「げっ。ということは、アル・ヤタハカムのサポーター優先?」
「いえ、そういうこともないと思いますけれど……」
「じゃあ、お金は払うから泊めてよ。いくらするの? 高いの?」
「あ、いえ、高いか安いかは正直……」
「……どういうこと?」
「一階の旅館は、客によって女将が値段を決めるシステムになっているんです」
うん?
客によって、女将が値段を決める?
それって、一体、どういうこと?
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