第七章 中東の野心家達

第1話 中東のサッカーチーム

 僕は、勝手に限界以上の力を出せる状態にされてしまい、茂みの中に飛び込んでしまった。


 痛くて声が出ない間、我秀胤十兵衛と魔央が探す声が聞こえてくる。


「むむぅ、完全に行方不明になってしまったな」


「悠さんはあまり大きくないので、木の陰に隠れてしまうと見えなくなってしまうかもしれません」


 うん?


 魔央は一体何を言っているんだ?


 木より大きな人間なんて、一体どこにいるんだろう?


「よし、あのあたりの木々を残らず消し飛ばそう」


 えっ?


 木々を消し飛ばすって、もしかして……。


 遠くの方から、爺さんが気合を溜めている声が聞こえてきた。


 ちょ、ちょっと、そんなことしたら、木々だけじゃなくて僕まで消し飛ばされるって!


「まて、まって……」


 ようやく微かに声が出るようになったけれど、とても間に合わない。



「どりゃー!」



 という大声とともに、木々がボーンと飛ばされてしまい、当然、僕も宙に飛ばされた。


「うわー!」


 少年漫画のやられ役のように、空中を飛ばされる僕。


 一分ほど飛ばされて、木々の葉や枝を折りながら、地面に激突した。


 痛いことこのうえない。


 けれど、ショックで体は多少動くことになっていた。


「痛ててて」


 足のあたりをおさえながら歩く。


 一体、どこまで飛ばされたんだろうか?



 幸いなことに、少し歩くと道路が見えてきた。


 最果村の道路はぼろぼろの道が多いはずなのだけど、この道はやたら綺麗だ。


 20分ほど歩くと、向こうに大きなサッカー場が見えてきた。


 こんな最果ての地にあるとは思えないほど立派なサッカー施設だ。


 しかも、豪華な車が止まっている。


 ド田舎なだけに、高級車で走りたい放題なんてできるのかな、と思ったらサッカー施設で大勢練習している。


 あれ、見たことある人がいるぞ。


 あれって、ブラジル代表のエイマールなんじゃないか?


 何でこんな有名人が、日本の田舎にいるんだ。


『彼らから隠れなさい、悠ちゃん』


 おっ?


 この突拍子もなく現れて命令してくるのは千瑛ちゃんか。


「どうかしたの?」


 近くの茂みに隠れて、スマホに聞いてみる。


『彼らはワリドアラビアのサッカーチームのアル・ヤタハカムよ』


「そういえば、エイマールはそこに移籍していたよね」


 二年前にセバスティアーノ・ライナートを獲得して以降、ワリドアラビアのチームは石油資源にモノを言わせて、有名選手をどんどん獲得している。


 近くのカタールがワールドカップを開催したのが、余程悔しかったんだろうか。


『そんな短絡的なものではないわ。彼らがここにいる目的は二つ。まずはここで日本企業の広告を撮影すること』


「なるほど」


 ここなら、人目につくことはないし、落ち着いて撮影が出来るのかもしれないね。


『もう一つは、日本の優秀なシステム・エンジニア達を集めること』


「システム・エンジニア?」


『というのは表名目で実質的にはハッカーね』


「ハッカー?」


 どういうこと?


 何で、サッカーチームにハッカーが出て来るの?


 敵チームの情報をハッキングとかしたりするわけ?



『悠ちゃん、貴方、ワリドアラビアにはどういうイメージがある?』


「石油の国かな? 石油王とか言うものね」


『そうね。大抵はそういうイメージね。でも、実際には人権なんて概念がない世界でもっとも酷い国の一つよ。それこそロシアや中国の方がまだマシかもしれないわね』


「むむっ。そういう国だから、スター選手を集めてイメージを良くしようとしているわけ?」


『……それもあるし、彼らには世界をひっくり返そうという野望もあるのよ』


「世界をひっくり返す?」


 またまた、きな臭い話になってきた。


 僕の周囲には、どうしてそういう話ばかりやってくるんだ?



 やっぱり、魔央がいるせいなのだろうか?

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