第7話 我秀胤十兵衛②

 我秀胤十兵衛はこちらに近づいてきたけれども、途中で足を止めた。


「こちらに来るがいい、時方悠」


「こちらって、池の中だよ?」


 上半身裸でふんどし姿なら、入れるだろうけれど、僕はそういう準備を何もしていない。


「つべこべ言わず、入るのだ! パンツ一丁になれい!」


「えぇぇぇ……」


 何だかとても面倒なことになっている。


「でも、ここには魔央だっているんだよ?」


 いくら許婚とはいえ、いきなり女の子の前でパンツ姿にはなれないだろう。


 と、抗議したのだけれど。



「この前、パンツ姿でたらいを持って踊っていましたよね?」


「ぐっ!」


 確かに、ジャーブルソンとの一件で、水没しそうなヂィズニーランドを救うべく千瑛ちゃんの前で裸踊りをしたことがあった。


 みんな忘れてくれればいいのにと思っていたけれど、魔央はそういうのはしっかり覚えているらしい。


 一度見たんだから、二度目も別にいいんじゃないかというストロングスタイルだ。


 そういうのは、普通、「嫌だー」とか言いながら、ちょっとでも恥ずかしがるべきではないのだろうか。


 破壊神だけに、そうした価値観も破壊されているのだろうか。



 パンツ姿になって、滝へと繋がる池へと入る。


 初夏だけど、最果村付近は自然が一杯なので気温はそれほど高くもない。だから水もより冷んやりとしたものに感じる。


 それでも、この爺さんなら真冬でも同じことをやりかねないので、とりあえず夏で良かったと思うべきなのだろう。


「うむ。それでは、これからわしがやることをやってみせよ」


「……一体何をするの?」


 僕の質問に対して、十兵衛爺さんは滝の下で「はぁぁぁ」と気合の声をあげはじめた。心なしか、彼の体中の筋肉がバルクアップされたようにも感じる。


「はあっ!」



 気合の声とともに、十兵衛爺さんが飛び蹴りの恰好で空中に舞い上がった!



 滝の水を蹴り飛ばしながら、岩場に手をかける。


「どりゃあっ!」


 彼は岩場を足掛かりに、再度飛び蹴りの恰好で飛び上がり、また滝の水を跳ね飛ばしながら別の岩場に飛び移る。


 それを何度か繰り返して、最終的に滝のてっぺんまでたどりついた。


「よし、次はお主の番だ!」


「できるかぁっ!」


 一体何を考えているんだ、この爺さんは。


 僕は普通の人間だぞ。そんな漫画やゲームのようなことができるはずないだろ!


「何故拒む!? 貴様は自分の可能性を否定しようというのか?」


「こういう可能性は、人間にはないから!」


「馬鹿な事を言うでない! 魔央、やってみせよ!」


「はーい」


 十兵衛爺さんの指示に、魔央が呑気な声で右手をあげた。


「えぇっ、できるの?」


 破壊できること以外はほんわか系だと思っていたのに、まさかの超絶身体能力の持ち主だったりするのか?



 僕の驚きをよそに、魔央は靴と靴下だけ脱いで池の中に入っていった。


「行きま~す」


 と、とぼけた声をあげると、軽くしゃがみこみ、そのまま飛び上がった!


 某有名格闘ゲームの昇竜拳のような恰好で数メートルほど飛び上がり、岩場に手をついて、反対側に二段昇竜拳のように飛んでいく。


 その流れ作業で、彼女もそのまま滝のてっぺんまで跳んでいってしまった。


「着きました~」


 もちろん十兵衛爺さんは大喜びだ。


「見事だ、魔央! それに引き換え、おぬしは何だ!?」


 反面、僕は彼から理不尽な怒りを受ける羽目になってしまった。



 いや、眷属とか何とかと言っていたけれど、この二人、破壊神の力、関係なくない?


 普通に物理能力で世界滅ぼせるんじゃないか。



 そんな気がしてきた。

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