第5話 眷属④
3分後、不意に空間にモニターが浮かんだ。
『面白そうなことをしているじゃない』
「千瑛ちゃん!?」
『現場を見せてあげるわ』
「いや、僕は今、運転中だから危ないから」
なんていうことを聞いてくれる彼女ではない。モニターには玄関周辺が映り、そこに吉利真面目のバイクが向かってきた。
「週刊憤激です! 凄腕ワーバーと名高い吉利さんにインタビューしたいのですが、よろしいでしょうか?」
四里がいきなり飛び出てきた!
しかし、吉利は全く速度を落とさず、向かってくる。
「この私を相手に黙秘権は許されませんよ!」
四里のペンが光り、吉利のバイクがパンクした!
「もらったよー」
そこに堂仏の操るカラス達が舞い降り、袋詰めの商品を取り出してゲットした!
いや、君達、それ、犯罪だから!
気の毒な吉利を見ていると、彼の体が黒く輝き出した!?
「カラスめ、許さん!」
吉利は飛び上がった!
「えぇぇぇ!?」
「カ、カーーー!?」
堂仏とカラスが同時に驚きの声をあげる。
吉利は何と、カラスの飛んでいる15メートルほどの高さまで飛び上がってしまった。
「返せ!」
吉利の右手も黒く輝く。
「危ない! カー坊、オムライスを捨てるんだ!」
堂仏の声が聞こえたのか、カラスは商品からクチバシを離す。
「誰にも渡さん!」
落ちていく商品に向かって吉利が方向転換する。
明らかに人間のやる動きじゃない。
これが眷属の力なのか!?
いや、でも、前、誰かに爆風で飛ばされた後、方向転換して配りに来たこともあったような……
素でもこれくらいできるのか?
空中で軌道を変えた吉利はそのまま商品の袋をガッチリつかみ、インターフォンへと滑空していく。
四里も堂仏も食い止めることは不可能と判断したようで、そのままなすに任せる。
とりあえず、僕は必死に自転車を漕いで部屋へと向かっている。
ようやくたどり着くと、玄関先で、吉利が魔央に商品を渡していた。
その帰り、ワーバーが目的を達成して油断した一瞬を狙って、堂仏に呼ばれたのだろう犬達が一斉に飛び掛かる。
おおぉ、犬達がワチャワチャとまとわりついていて、犬好きだったら天国と感じるような光景だ。
だが、ワーバーの吉利には通用しない。
「どりゃあ!」
という叫び声とともに、犬達が大きく弾き飛ばされた。
「みんな、大丈夫!?」
堂仏が悲鳴をあげたが、幸い犬達はただ飛ばされただけで怪我などをしたものはいなかった。
そんな中を、吉利は悠々と歩いてバイクに乗って戻っていく。
「……誰かを滅ぼす力はないような気がする」
色々と人間ではない動きをしていたけれど、あくまでワーバーとしての仕事のために使っていた印象で、それで危害を受けた者もいない。
確かに、あの人間離れした動きを見せられれば、周囲のドライバーがびっくりして事故を起こすかもしれない。だから安全ではないのかもしれないけど、それは僕達がどうこうすることじゃない。
「しばらく様子を見るということでいいんじゃないかな」
僕の言葉に、集まったみんなも一応納得してくれたようだ。
というか、ここにいるみんな、暇だよね……。
かくして、吉利真面目の一件は解決した。
いや、正確には一つだけ問題が残っていた。
「……」
商品を開いた魔央の目にじんわりと涙が浮かんでいる。
空中に放り投げられふり、振り回されたりしたせいで中がグチャグチャになっていた。もちろん、吉利真面目のせいではなく、僕達の方に問題がある。
「これは僕が食べるよ。新しいのを頼むから」
ビーフシチューとオムライスのミックスとなったものを食べることになる。とはいえ、そんなに味は悪くない。
ついでにエビフライも食べようとすると。
「エビフライ、欲しいです」
魔央がねだってきた。
「……どうぞ」
僕はエビフライを渡して思う。
魔央、さっき改めて同じものを頼んだはずだから、ビッグエビフライがそこに二本ついているよね?
一人で四本食べるのだろうか?
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