第4話 眷属③
その日の夕方、僕はレストラン・キングスホストの前に待機していた。
僕の隣には山田狂恋がいる。
「そろそろ来るかしらね」
「多分……。どうでもいいけど、そっちの方、空いているよ」
山田さんはやたらとこちらにくっついてくる。お陰で動きにくくて仕方がない。
「大丈夫よ、吉利真面目がやってきたら動くわ」
ということは、それまではこの態勢が続くらしい。
全く……。
恐らく、吉利真面目が眷属なのではないかと思った僕だけど、さすがに証拠もないのに彼を断罪するわけにもいかない。
ということで、夕方、魔央にキングホステスのビーフシチューにオムライスセット(ビッグエビフライつき)を頼んでもらい、それを運んでもらうことにした。もちろん、吉利真面目を指定して、である。
魔央は吉利に何回も頼んでいるし、彼女の注文は日本政府公認の最優先オーダーだ。断られる心配はない。
彼が本当に眷属ならば、その間に何かが起こるのではないか、というものだ。
追跡メンバーが必要なので、バイク乗りの山田さんと、僕が自転車で追撃しようというものだ。ちなみに山田さんからは「一緒に乗ってもいいのよ」と誘われたけど、そうなると勝手に別の場所に行くかもしれないから丁重に断ることにした。
4時20分、魔央から「注文しましたよ~」というメッセージが届いた。
レストランが作るまで15分程度だから、多分その前後で吉利真面目はやってくるだろう。
14分40秒のタイミングで吉利の見慣れたバイクがやってきた。
何という正確さ、さすが業歴25年のワーバーだ。
15分ジャストでレジに行き、すぐに商品を持ち出してきた。
「よし、行こう」
僕は自転車に、山田さんはバイクに乗り、吉利を追いかける。
……のだけど、あっという間に置いていかれてしまった。
バイクと自転車だと、もちろんバイクの方が有利なのは間違いない。
しかし、ここは人混みも交通量も多い都心だ。
そんなスイスイ抜けられるはずはないはずで自転車でも追いかけられると高をくくっていたのだが、実際にはスイスイと進まれてしまった。
世の中は、というよりワーバー25年は甘くなかったというところか。
こうなると、彼と同じくスイスイと追いかけている山田さんが頼りになる。
山田さん以外には、自宅への定点ポイントにと木房さん、川神先輩が、自宅の前には堂仏都香恵と四里泰子が待機している。
『こちらチェックポイントA。ただいま、吉利真面目が通過したであります』
木房さんからの連絡が来た。
「山田さんはついている?」
『10メートルほど後ろをぴったりくっついているであります』
そうなのか、すごいなぁ。
僕は完全に置いていかれたというのに。
二分後に川神先輩からも通過したというメッセージがあった。ここでも山田さんはついているらしい。
『特に吉利真面目の周辺に異常はないみたいね』
「そうですか」
四里の噂によると、ワーバー関係の周辺で事故が増えているということだから、ついていけば何かあるのではないかと思ったけれど、今のところはないらしい。
『ちょっと妨害させてみるよう、堂仏と四里に言ってみるわ』
「えっ、それは危険じゃない?」
此花婆さんによると、眷属は世界は無理にしても、街くらいなら破壊できると言っていた。そんな理不尽な力を使われると大変だし、魔央の時と違って、破壊されたものを僕が再生できるのかも分からない。
『大丈夫よ。二人ともサバイバル能力に秀でているし』
「そういう問題ではないと思うのですが……」
と思ったけど、それで何かが起こるかもしれないのも確かである。
川神先輩が「やらせる」というのなら、それでいいかもしれない。そう思った。
ようやく木房さんのいる第一ポイントを通過した。
僕が戻るまではあと五、六分はかかりそうだ。
それまでに何か事態が変わっているだろうか。
僕は必死に自転車を漕ぐ。
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