第2話 眷属

 夕方、部屋まで戻ると魔央はワーバーで頼んだらしいハンバーグカレーを食べていた。


 本当にハンバーグカレー、好きだね……。



 食事中だから聞きやすいので、此花婆さんから聞かされた話を魔央に振ってみた。


「あぁ、眷属けんぞくの話ですね。聞いた覚えがあります」


 眷属?


「はい。世界を滅ぼす回数が素数に達する毎に、私の知っている人の中から、破壊の力を持つ眷属が生まれるって」


「そういう大切な話は、先にしておこうよ」


 素数なんて聞かされていないよ?


 魔央も教えてくれていいのに、と思うけど、それ以上に此花婆さんは何でかくしているんだ。全く理解不可能だ。


 とりあえず、今までに世界は三回滅んでいるはずだ。


 素数に達する度に、ということは、2回目と3回目に滅んだ時に眷属なる者が生まれていることになる。


 二人いるとなると、これは由々しき事態だ。


「眷属になっていそうな人に心当たりはないかい?」


「そうですねぇ」


 魔央は天井を見上げながら考えている。


「高校までは通信で、全然友達もいませんでしたし、大学から入ったばかりですけれど、悠さんや七使徒の人には影響がないので中々思い当たる人はいないですねぇ」


「須田院や護衛はお守りをつけているというしね」


「そうすると、大学の教室で二回ほど会話した女子と、挨拶をした三人とか……」



 そのレベル!?


 そのレベルで眷属になってしまうの?


 魔央と一回挨拶しただけで、破壊神の眷属になってしまうって怖すぎない?



「あっ、一人忘れていました!」


「誰?」


「高校時代に教師をしてもらった我秀胤十兵衛がしゅういん じゅうべえ先生がいました」


「我秀胤十兵衛……」


 また、偉く強そうな名前の人が出て来たな。


「この人、剣道と柔道と空手とムエタイで世界チャンピオンになったことがあるということで、護身術を教えてもらっていたのですが、上京する前にも三回くらい教えてもらいました!」


 本当に強かった。


「魔央の先生なら、お守りを持っているんじゃないの?」


「それが……、自分は強さを極めたから、破壊神の強さに勝てる心を持っているとかでお守りを拒否していまして」


 何という迷惑な人なんだ。


 となると、一人はその人で決まりだな。



 問題はあと一人。


 魔央と接触した形跡のある人は、本人が言うところによるとフランス語の授業中に会話をした女子二人と、休憩時間中にナンパしてきた男二人、あと道を尋ねてきた男が一人で合計五人だ。


 正直、この五人は全員怪しいというのも可哀相なんだけど、この五人の中に該当者がいるはずだから、総当たりで調べてみるしかない。


 で、調べた後はWOAに送る、のかな?


 此花婆さんに電話してみる。


『馬鹿を申すな。わしらWOAに破壊神の力を中和することはできない。魔央と同じく、おまえが何とかするしかないのじゃ、時方悠』


「えっ、僕が何とかするの? って、何をすればいいの?」


『そんなことは知らんわ! 魔央は愛で救うのだから、似たようなものじゃろう!』


「いやいや! ちょっと待ってよ!」


 女子ならともかく、我秀胤十兵衛のような強面の相手と愛って何なの?


 僕はどれだけ罰ゲームなポジションなわけ?


 文句を言うとすぐに切られてしまった。


 何という婆さんだ。



「今まで世界が滅んでも何とかなったのですから、悠さんなら何とかできるんじゃないですか?」


 魔央が励ましてくれるけれど、全く裏付けがない。


 それでも、とりあえず探してみるしかないんだろう。


 僕は明日、魔央の授業に付き添うことにした。

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