第六章 破壊神の分身

第1話 汚染体

 大学に向けて自転車で走っていると、着信があった。


「あ、久しぶりだ」


 かけてきた相手は此花咲夜このはな さくや


 WOA(World Occultic Association=世界オカルト協会)の理事だという婆さんだ。


『どうじゃな? 時方悠ときかた ゆう、進捗の方は?』


 電話に出た途端、進捗を聞かれた。


 おそらく、魔央まおとの進展なんだろう。


「それが七使徒とか変な人が出てくるので、全然進んでないですよ」


 正直に答えることにした。


 ぶっちゃけ、情報をきちんと与えてくれない此花婆さん達が悪いのだし。


『それはいかんのう。そろそろ、第一の変化が現れる頃だというのに』


「第一の変化?」


『時方悠、おぬしは今、どこにおる?』


 どうやら、会いに行かなければいけないようだ。



 WOAの本拠地は六本木にあった。


 高層ビルの地下5階まで行くと、婆さんが待っていた。


「久しぶりじゃのう」


「……そうですね」


 此花婆さんは、近くの壁に鍵をさした。壁が隠しドアになっていて、そこから地下6階への階段が現れる。こんな高層ビルが、ゲームのダンジョンのようになっていたとは。


 地下6階の一角にオフィスがあった。入り口に『世界オカルト協会』と手書きで書かれてある。


 中も普通のオフィスだけど、人が誰もいない。


「職員はいないんですか?」


「ハハハ、ここには在勤職員はほぼおらぬ。皆、色々なオカルト活動の調査のために世界を飛び回っているので、な」


「なるほど……」


「ま、そこに座るがよい」


 婆さんの勧めで椅子に腰かける。程なく、茶を出してきて、僕の前の椅子に座った。



「時方悠よ、正直に言うがよい。今まで、魔央は何度世界を滅ぼした?」


 あっ、その仕組み、婆さんも知っていたのね。


「三回ですね」


「うむ、三回。恐らくそのくらいだろうと考えていた」


「分かるんですか?」


「世界が滅んだかどうかは分からぬ。ただ、世界を滅ぼすほどのエネルギーが発生すると、地球や太陽系の運動に歪みを来すのじゃ。それを調査していれば、どうやら滅んで再生したらしいというのは分かる」


 なるほど。痕跡が残るというわけね。

 その部分も気にはなるけど、より気になる発言があった。


「婆さん、さっき、第一の変化が起こるって言っていましたが、それは何なんですか?」


「魔央は世界を破壊すればするほど、経験が増してくる。ゲームなどであるだろう? レベルアップという概念が」


「……えっ、もしかして、破壊神としてレベルアップするんですか?」


 破壊神なんてそれ自体が最強の存在なのに、そこにレベルがあるというのは驚きだ。


 というか、強くなったらどうなるんだろう?


 今だって、驚いたらその場で世界を滅ぼしているけれど、もっと簡単に滅ぼすことになるのだろうか?


 指をパチンと鳴らしたら、世界が崩壊、みたいな。


「魔央本人の破壊神としての力は変わらない。しかし、ありあまる破壊エネルギーを受け取った、別の者が破壊神に準ずる者としての力を行使できるようになる」


「えぇっ? つまり、魔央以外にも破壊神が出て来るかもしれないということですか?」


「そうだ。そなたと七使徒は別だが、そうでない近い人間を汚染してしまうのだ。汚染された人間は、世界滅亡とまでは行かないまでも、例えば町一個くらいは破壊できる」


「え、今、僕と七使徒以外の人は汚染されると言わなかった?」


 それはかなり由々しき事態じゃないか?


 僕と七使徒以外ということは、武羅夫や武蔵もそうなってしまう可能性があるってことだよね。須田院阿胤も汚染されるかもしれない。


「いや、それは大丈夫じゃ。汚染を阻むためのお守りが存在するからのう」


「なるほど……、じゃあ、そうじゃなくて魔央に近い人物が、プチ破壊神みたいになっているかもしれないわけだ」


 誰だろう? いるのかな。


 魔央は基本的には部屋で大人しくしていて、誰かと行動しているということはない。もちろん、電話で話をしている相手はいるかもしれないし、大学に仲良しはいるかもしれないけど。


「その通り。これを放置しておくのは危険だ」


「分かったよ、調べてみる」


 一難去ってまた一難。


 僕の生活に、平穏という文字は存在しないようだ。

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