第11話 ブロットの交換条件

 僕は、ブロットから電話を受けた。


「もしもし?」


『......君は相変わらず、私をイライラさせるのが好きなようですね』


「そうでしょうか?」


『......まあ、いいでしょう。私も君と話したいことがある。今から私の指定するところまで来てもらいましょう』


「僕は色々なところから狙われそうなんですけれど?」


『その点については心配はいりません。私と面会するまでは安全を保証します』


「......分かりました」


 疑う気になればいくらでも疑えるけれど、何故か今回は彼の言うことは本当のように思えた。だから、僕は彼に指定されたところまで行くことにした。


 にしても、経済産業省の建物の前というのは、嫌がらせか何かなのだろうか?



 有楽町から自転車で霞が関まで向かい、経済産業省の入口あたりで待つ。


 何人かの公務員だろうスーツ姿の人と行き交うけれど、まさか僕が朝、世界を揺るがせた存在だということには気づかないようだ。


 5分ほどでブロットもやってきた。今日もしっかりウィッグを着用している。


「......」


 近くの木の上に、どこかで見たようなドローンが待機していた。


 まさか、あのドローンは......


「久しぶりですね。時方悠」


「久しぶりって、ほぼ一日ぶりくらいじゃないですか?」


「そうだったかな。あの時は大変世話になったよ」


「あれは、僕じゃなくて、別の人が操作するドローンだったと思うのですけれど」


「フン! 今回はしっかりと固定させてある。二度と私を馬鹿にすることはできないと思っていただきたい」


「......だから、元々そんなつもりはありません、ってば」



 話が進まない。


「電力って、どうやって発生させているんですか?」


「そんなことは簡単だが、後から秘書のエレオノラから説明させよう。記者会見を見ただろう? 私の隣りにいた美女だ。感謝したまえ」


「近づいたら化粧の匂いがすごそうな、ちょっとケバい感じがする人ですか?」


「君は本当に失礼な男だな!」


 また怒らせてしまった。


 彼はカルシウムが足りていないのではないだろうか。


「......こちらの要望も伝えよう。黒冥魔央をしばらく預けてほしい」


「魔央を? どうするつもりですか? 変なことをするつもりじゃないですよね?」


「世界はすべて科学によって成り立っている。唐突に世界を滅ぼすとか、愛で再生させるなどということは、あってはならない。きっとそこには何かの仕組みがあるはずなのだ。それを解明することでジャーブルソンの科学力は更に強くなる」


「なるほど」


 オカルト的な話はありえない、というわけか。


 確かにそれは僕も同感ではある。魔央がいきなり世界を滅ぼすというのは経験していても受け入れがたいし、僕がその後何の問題もなく復活させていることも不思議でならない。


「一応、聞いてみますよ」


 僕自身は乗り気じゃないけど、本人がそれでもいいなら仕方がない。僕は魔央に確認することにした。


 魔央は即答で『嫌です』と来た。


『あの人、鬘で頭を隠していましたし、他にも隠していることがあるんじゃないかと思います』


「確かにそうだね。鬘で頭を隠すのなら、他のことを隠すかもしれないね」


 僕はそう言って、電話を切った。


「嫌だと言っていました」


 答えて反応を見ると、ブロットはカンカンに怒っている。


「君のことは最初から気に入らなかったが、とことんまで私を侮辱するのだね! いいだろう! ジャーブルソンの真の恐ろしさを......、アッ!?」


「あっ!」


 ブロットの叫び声とともに僕も思わず声を上げた。


 先程見つけたドローンが、ブロットの頭上に迫り、また鬘を掴んでいってしまったのだ。


「あれ、今回はしっかり固定していたんじゃなかったの?」


 僕が尋ねるが、ブロットはドローンを追いかけていてそれどころではない。


 職員が「変な人がいるな?」という生暖かい目でブロットを追っている。庁舎内にドローンが飛んでいるのは大問題だと思うのだけど、それは問題にならないようだ。



 と、ドローンが急転換して、鬘を落とした。


 ブロットがそれを受け取るのと同時に千瑛の声が響く。



『オクセル・ブロット。あなたはやりすぎたようね』


「な、何者だ?」


『あなたへのメッセージを預かってきているわ。受け取って頂戴』



 と言った途端、上空に映像のようなものが見えた。



 何かのステージで、その上にいるのは......天見優依!

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