第7話 楽しい?一日も終わりがある
幼馴染の
僕のせいで、急性白血病で病死したと思っていたけれど。
まさか、幽霊兼AIとしてこの地上に残っていたとは。
「……ごめん」
『……何を謝っているの?』
「僕のせいで、君は急性白血病になってしまって……」
先ほど、裸踊りをさせられたが、僕が彼女にした仕打ちを考えれば、そんなものは復讐の内に入らないだろう。
何て言えばいいのか、何を言えばいいのか分からないけど、とにかく謝罪の念だけが湧いてくる。
だが、千瑛からは呆れたような言葉が返ってきた。
『そんなつまらないことを気にしているの? 別に全く気にしていないわよ。むしろ感謝しているくらい』
「感謝……?」
『そうよ。これだけ自由があって、空腹も何も気にしなくていい。今の方が余程最高だわ』
「そ、そうなの?」
確かに、千瑛は自由自在に存在しているように見える。
好きな時に現れて、そうでない時は自由気ままに漂っていそうだ。
『人間はさなぎみたいなものよ。地面に縛り付けられ、勝手に自分達の可能性を縛り付けている。死という過程を経ることによって、人は地面をはいつくばるさなぎから、自由に飛び回れる存在へと孵化できるのよ。みんな、死ぬべきなのよ。そうしたら幸せになれるわ』
「いや、その発想はまずいよ……」
集団自決の推奨みたいになってしまって、大変なことになる。
のだが。
「そうだったのでありますね! みんな幸せになるなら、むしろ善性悪性にこだわらずに消していくべきでありますね!」
「いや、ダメだから!」
あっという間に調子に乗るのが現れる。
「しかし、みんなが幽霊やAIになれるものなのかしら?」
川神先輩が首を傾げた。
確かに、これまで死んでいった人達が全員幽霊になっているとすれば、騒々しくて仕方がないはずだ。
それに、さっき地獄も見てきたばかりだからな。
死んでも全員が千瑛のようにお気楽な立場になれるわけではなさそうだ。
不意に物音がした。振り返ると、水清長次郎がこちらに向かってきていた。
「どうやら終わったようだ」
筋尾組長が言うと、水清はサングラスの位置を指で直す。
「おやっさん、あっしが数人の者とともに出頭してきやす」
「何を言うか! これからの日本極道に必要なのは、わしのような老人ではない。おまえが必要なのだ。わしが出頭する!」
「親を出頭させて、極道も何もありません!」
何かいきなり極道映画もののノリで言い争いを始めた。
『……あぁ、そういえばヤクザ者が乗り込んで機動隊と打ち合いをしていたわね』
「機動隊に犠牲者は出たんだろうか?」
魔央のためにヂィズニーを貸し切って、ヤクザと機動隊が銃撃戦をして犠牲者が出たのだとすると、本当に不毛過ぎる話だ。
「時方さん、あっし達のやることでございますよ? 全員、麻痺しただけで死人などはおりやせん」
「そうなの!?」
それは朗報なんだけど、ヤクザに戦闘不能にさせられる機動隊というのも不安があるなあ。
「と、かっこよく言いたいところですが、実際はジャーブルソンから提供された武器が良かったというのが理由ですね」
水清が出したのは、少し長身のリボルバーのようなものであった。
「自動照準、発砲補助装置、補正機能がつきまくりのスタンガンです。こいつがあれば、幼稚園児でも歴戦の強者に早変わりです。時代は変わってしまったと思わせる話ですよ」
「そうなんだ……」
幼稚園児を強者にしてしまうスタンガンはまずいな。そんなものが広まれば、世界は大変なことになりそうだ。
『ジャーブルソンは色々なものを開発しているわ。この銃はその一端というところね』
「そうなんだ」
『呑気に話している場合じゃないわよ。何せ、悠ちゃんはジャーブルソンのリーダー・オクセル・ブロットを激怒させてしまっているのだから。溺死作戦が失敗に終わったとすれば、新しい攻撃を仕掛けてくる可能性もあるわね』
「それは僕のせいじゃないから! というか、何とかしてくれよ!」
僕の抗議を、千瑛は平然と無視する。
『……機動隊の件については気にしなくてもいいわ。誰も、この件を事件にすることはないでしょう』
そう言って、千瑛はモニターに映像を流した。この空中モニターもジャーブルソンの開発だったと思うけど、勝手に使いこなしているのね。
「あっ!」
映像を見た皆が一斉に叫ぶ。
何と、襲撃しているヤクザ達の姿かたちが変えられていて、石田首相をはじめとする与野党議員達になっていた。
『これが明るみになれば、日本の政治は完全に破滅するわ。だから、誰も問題にしないでしょう』
しれっと、とんでもないことを言うんじゃないよ。
まあ、確かにこれで大丈夫だろうけれど。
こうして、ヂィズニーランドの一日はハチャメチャなまま終了した。
僕達は魔術師達を敵にし、更にジャーブルソンも敵にしてしまった。
代わりに元祖任侠組が味方になってくれた。
いいのか、これで?
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