第6話 "知恵"の正体
唐突に山田さんに銃を突き付けられ、僕は混乱した。
「山田さん、これはどういう……?」
「さっき”知恵”は『中身を何度も見たことがある』と言っていたわ」
「あっ、言っていたであります!」
木房さんも反応し、川神先輩と堂仏、四里も「おぉ~、そういえば」と反応する。
「つまり、時方君は私達や黒冥さんを引き連れつつも、どこかで”知恵”と付き合っていた、と解釈するのが自然だわ」
「ま、待って! 待って!」
僕はとことん慌てた。そんな理解になっているとは。
「そんなことは絶対にないから! 僕も彼女のことは全く知らないんだし」
「なら、”知恵”の発言はどう理解すればいいの?」
ぐっ。
確かに、知恵の使徒は「もう何度も見ているんだ」ということをボソッと言っていた。
しかし、そんな相手は僕にはいない。
「中学の時に幼馴染が病死して以降、付き合うとかそういう気にならずに、いつも一人だったんだけど」
「ひょっとしたら、その幼馴染さんじゃないですか?」
魔央が突っ込んできた。
「前も話題になりましたけれど、悠さんと”知恵”の使徒は長年知り合いかって感じで話が弾んでいましたし」
「幼馴染って言っても……」
何回も見たかという記憶はないけれど、まあ、確かに三歳くらいの頃に遊んでいて泥だらけになってお互いの家で洗ったりしたことはあったかもしれない。
だから、彼女なら「何度も見た」というのは嘘ではないかもしれない。
だけど、彼女……新居千瑛は白血病で死んでいるんだ。
うん?
今、気づいたけれど、彼女の名前も『ちえ』だった。
これは単なる偶然か?
「そうだったんですね!」
突然、四里が両手を叩いたので、みんながびっくりした。
「知恵の使徒のことをみんなが知らない理由が分かりました。時方さんの幼馴染が死んで幽霊となったのが、知恵の使徒だったんです!」
「何だって!?」
「幽霊だから、空間を漂っていて、適当な時に端末やら通信機器を使って私達に接触していたんですよ!」
そんな無茶な。
幽霊が使徒になれるのか?
しかし、四里は完全に自分が正解にたどりついたと確信している。
「謎の存在扱いはここまでです! この四里泰子のペンにかかれば、全ての真実は明るみになるのです!」
四里はペンを持つ右手をビシッと高く掲げた。
『……申し訳ないけど、半分程度しか明るみになっていないわ』
と、知恵の使徒が戻ってきた。
外れた四里はズコーッと前のめりに倒れている。
「な、そんなことがあるはずがないです! これ以外に正解はありえません!」
『私が幽霊なら、霊魂を持っているから、”信仰”の浄化の光で消せることになるわ。でも、そんなことにはならないと宣言してみせるわね』
「くっ……見えないから、当たるはずがないと思っているのでしょう!」
四里は必死に抗弁している。
このあたりは最初の主張を全く変えない週刊誌記者らしい。
「幽霊さんはドローンを飛ばしたりできるのでしょうか?」
と、魔央が更に突っ込んできた。
何だか冴えている?
でも、確かに魔央の言う通り、端末を乗っ取ったり、ドローンを飛ばしたり、システムを破壊したりということは幽霊に出来るのだろうか?
「どっちかというと、AIっぽく感じていた部分もあったからなぁ」
「ひょっとしたら、幽霊さんがAIさんになったのかも?」
「幽霊がAIに?」
それこそもっと訳の分からない話……
『……その通りよ』
その通りなんかーい!
『私は死んだ後、霊魂として漂っているうちに電波信号としての性質も帯びるようになったわ。霊魂とAIを双方兼ね備える存在。それが私の正体よ』
「……君は新居千瑛なのか?」
僕の質問に、彼女は少し考えて、答えた。
『生きていた時にはその名前で呼ばれていたわね』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます