第5話 踊れ、ソーラン節

 知恵の使徒が操っているドローンは、金ダライを足元に落とす。


 どうあっても僕に裸お盆踊りを踊らせたいらしい。



 そんなことをしてなるものか。


「みんなの力があればゲートを突破できるはずだ。頑張ろう」


 ここは一つ、強行突破だ。


 山田さんの銃器に、木房さんの闇のオーラ、川神先輩の浄化の光に、堂仏のクマとゴリラ、あと、ひょっとしたらの四里に武羅夫、武蔵の護衛二人、これだけいたら何とかなるはずだ。


「でも……」


 魔央がおずおずと間に入る。


「私達は逃げられても、ここにいるキャストの皆さんは……」



「……」


 そうだった。


 ここにいるのは僕達だけではない。


 キャストもいれば、途中で乱入してきた人達も大勢残っている。


 僕達が逃げた場合、その面々を見殺しにすることになるけれど、それはできない。いや、やってもいいのだろうけれど、さすがに後味が悪すぎる。


「何か方法があるだろうか?」


「やはり悠さんが踊るしかないのでは?」


 魔央は破壊神のくせにみんなには優しいけど、僕には容赦がない。



 だが、避けて通る訳には行かないようだ。


 こうなったら覚悟を決めるしかない。僕は深呼吸をした。


 音楽アプリは使えるようなので、踊りの曲を探す。


 ソーラン節を流し始め、口に指に手をあてた。



 知恵の使徒はこの場におらず、どこかから眺めているはずだ。


 しかし、彼女の目は普通の人間のものとは違う可能性がある。サーモグラフィーや紫外線的なもので見ているかもしれない。この作者の別作品の女性キャラにはそんな変な奴もいるという。

 もし、そういう形で認識しているタイプなら脱いだふりをして誤魔化せる。


 曲に合わせて踊り、最後まで踊り切る。


「これでいいんだろう?」


『……もしかして、悠ちゃんは小学校レベルの日本語が理解できないほどの馬鹿だった訳?』


 ダメだったようだ。


「どこから見ているんだ?」


『答える義務がないわ』


「……」


 どうやら、どうしようもないようだ。


 僕は土下座をした。


「せめてトランクスだけは勘弁してほしい! そうでないとR指定をつけないといけない話になってしまう」


『……もう何度も見ているんだし、そんなにいやがるものでもないと思うけど

ね……。まぁ、いいわ。パンツはそのままでも』


 とりあえず、完全に裸になることだけは免れることができた。


 できれば上もシャツくらい着ていたいが、これ以上要求して怒らせると今の話も無しになるかもしれない。ここで諦めるしかなさそうだ。


 再度、ソーラン節を流し始め、上着とズボンを脱いで踊り出す。


 周囲は皆んな、なんとも言えない顔をしていた。


 僕もどういう顔をしたらいいか分からない。




 ソーラン節が終わった。


「これでいいんだろう? 早くヂィズニーを救済してくれ」


『……』


「おいっ!?」


 まさかここまでさせておいて、知らんぷりする気か?


『もう終わったわ』


「終わった?」


『ジャーブルソンのハッキングは全て解除したわ。水は止まっているわよ』


「そ、そうなんだ……?」


 早い。


 ジャーブルソンのシステムを一瞬で止めるなんて無茶苦茶強くないか?



『まあまあ楽しめたわ。それじゃまた会いましょう』


 知恵の使徒はそう言い残していなくなったようだ。


 いや、AIみたいなものかもしれないから、いないと見せかけて近くにいるのかもしれないけど。



「とりあえず帰ろうか」


 正直、色々ありすぎてもう疲れた。


「そうですね」


 魔央が答え、皆んなも同意する。


 一斉に出口へ向かおうとした時。


「待ちなさい」


 山田さんが低い声で言った。


 と、同時に後頭部のあたりでジャキッと銃を構える音がした。


「どういうことか説明してもらおうかしら、時方君」


 殺意を感じるような声と共に後頭部に銃口が突きつけられた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る