第4話 オクセル、激怒する

 オクセル・ブロットは言いたい放題だ。


 何か言い返すことはないかと思った時、ブロットの後方に浮かぶものが見えた。

 先程、金ダライを持ってきたドローンだ。細い腕がのび、その先にマジックハンドのようなものがついている。


 思わずその動きに目を奪われたのを、ブロットは僕が呆然としていると受け止めたらしい。

「分かりますよ。君が呆然となりたくなるのも。進化した世界を突きつけられた時、人間は皆、そういう反応を示すのです」


 ドローンは非常に小さな音しか出していない。

 だから、自分の話に夢中になっているブロットには聞こえないようだ。

 僕の視線は今やドローンにのみ向けられている。


 一体、何をするのだろう。

 まさか......


 そのまさかだった。


 ドローンのマジックハンドはブロットの髪の毛を掴んだ。

「うわっ!? 一体、何だ?」

 と、ブロットが慌てる間もなく、ドローンはブロットの鬘をベリッと剥がしてしまった。

「あっ! 返せ!」

 ブロットがドローンに手を伸ばそうとするが、ブーンと音を立てて遠くへ飛び去ってしまった。


「ぷ、ぷぷぷ......」

「だ、ダメだよ、笑ったら......」

 思わず吹き出しそうになっている山田さんと魔央をとどめようとするが、見事に鬘を撮られてコントのように慌てているブロットの姿が面白すぎたのは確かだ。

「くくく......」

 ダメだ、何か言われたら爆発してしまいそうだ。

 そんな僕達に、ブロットの怒りの視線が向けられてきた。


「なるほど......。これが君達の答えということですか」

 やばい。口調が先程の3倍増しくらいで冷静になっている。こういう時って、大抵はメチャクチャ怒っている。

「今のは僕達じゃないから! 知恵の使徒の仕業だから」

「......関係ありません。議論を放棄して、私を辱めて解決を図るとは。失望しましたよ、ここまで野蛮だとは」

「......他人の評価を気にしない絶対評価なんだから、髪の毛が少なくてもどうでもよくないですか?」

「『髪の毛が少なくても』!? どうやら、君達は私の最後の慈悲心をも不要ということのようですね」

 ブロットはバチンと指を鳴らした。

 何やら怪しい音が聞こえてくる。


「たった今、ヂィズニーのシステムを完全に乗っ取り、すべての出入り口を封鎖しました。ついでに、排水口をすべて閉じて、全部の蛇口の水を全開にしています。じわじわと溺れながら、己の所業を後悔するといいでしょう」

「な、何っ!?」

 一瞬驚いたけど、電話すればいいかと思ったら、電波も繋がらない。多分妨害電波か何かを流されているのだろう。

「私はこれにて失礼します。夜のニュースを楽しみにしていますよ」

 ヘリコプターの音がして、ブロットがそこから吊り下げられたワイヤーを掴んで空に上っていく。

「待て!」

 と叫んでも、彼が降りてくることはなかった。


 非常にまずいことになった。

 このままでは全員、閉じ込められたまま溺死することになりかねない。

「山田さん、入口をマシンガンで突破できる?」

「入口がそのままなら、突破できるけど......」

 そうか。ただ、入り口を封鎖しただけでは済まさないかもしれないからね。


 まずはみんなと合流して、何か方法がないか探してみよう。

 と思った途端、真正面から先程のドローンが戻ってきた。

 僕達の前まで飛んできて、ブロットの鬘をポンと落とす。

「いらないよ! どうしてくれるんだ! 君のせいで、ヂィズニーが水浸しになるかもしれないんだぞ!」

 ドローンは無言のまま少し滑空し、金ダライを拾い上げて僕の前に落とした。今、ここで裸のタライ踊りをやれば助けてやるぞと言わんばかりだ。

「誰がするかー!」


 何とか全員と合流した。

「そうだ、堂仏なら動物の助けでどうにかならない?」

「ちょっと厳しいよ。ボクが動かすことのできる動物は半径5キロ以内にいないといけない」

「......うっ。浦安からその距離だと頼れる動物はいないのか」

「ヤスオとビリー(ツキノワグマ・4歳)だけだと難しい」

「ワタクシの黒オーラも先輩の浄化の光もゲートは消せないであります」

「私のペンも無機物には通用しません」

 マジかぁ!?

 多羅尾と武蔵......は期待するだけ時間の無駄だろう。


 その時、背後でもう一度金ダライの音がした。

 ドローンが金ダライ2つをマジックハンドで掴んで、僕の方へと持ってきた。

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