第五章 北欧の地下組織
第1話 ジャーブルソン
スウェーデンの地下組織・ジャーブルソン。
その内実とは一体何なのか。
僕は知恵の使徒の言葉を待つ。
『北欧は教育や権利意識が進んでいる国と言われているわよね?』
「そうだね。福祉も進んでいて、人によっては理想の国だと考えていると聞いたことがあるよ」
『彼らはその中でも、もっとも過激な権利集団と言っていいわね』
「権利集団? 人権団体みたいなもの?」
それだと、地下組織とは言えないんじゃないかな。
確かに、たまに過激な活動をしている環境団体などの話は聞くけれども。
「うわっ!」
突然、空間に北欧人ぽい男性の顔が映った。顔は長くて、かなりのハンサムだ。
『これがブロットよ。一般的に私達が北欧人として認識する白人・青い目・長身・ハンサムの系列に該当するわね』
「確かに」
『残念なことに頭頂部がかなり寂しいわ』
何故か頭頂部に移動した。確かにそこはかなり薄い。髪が薄めの金色で地肌に近い色なこともあいまって、完全に禿げているようにも見える。
でも、この情報いるのかな?
『そして、彼らが保持している技術がこれ』
「これ?」
『悠ちゃん、空気中にモニターがあって不思議だと思わないの?』
「あっ、そういうことか」
確かにモニターがなさそうな空中にブロットが映し出されているのは、かなり変だ。
ただ、最近不思議なことが多すぎて慣れてしまい、おかしなことと思わなくなっている。
『空気中にある微粒電子を利用して、空間にモニターを設置する技術を開発したのよ。これがあれば、どこにあっても、衛生電波を気にすることなくインターネットに接続できるわ』
「すごいね......」
『これがあれば、世界は壊滅するわ』
「そうなの?」
画期的な技術だし、これが一般化されれば端末系商品は売れなくなるだろうけれど。
『誰もが電波も機器もなしにアクセスできるのよ。情報を独占している独裁国家は半年で滅ぶわね』
「あ、確かに......ネット検閲が無理になるのか」
そうなると、独裁国家はひとたまりもないかもしれない。いや、独裁国家じゃないところでも甚大な被害を受けることになるだろう。被害がましだ、という程度なだけで。
『それ以外の国でも誹謗中傷がはびこるわ』
「そうか......。どこからアクセスしているか分からないから、発言が完全にフリーになるわけだね」
『しかも、翻訳通訳ソフトも完璧になっているから、世界中どこからでも飛ばせるわ。発信者の処罰は物理的にも、法的にも不可能になるのよ』
「世界中が協力して、取り締まる。無理だろうなぁ......。恐ろしい世界になりそうだ」
なるほど、ジャーブルソンが地下組織になるのも仕方ないのかもしれない。
『ちなみに北欧で教育というと、まず思い浮かぶのはフィンランドだけど、作者が別作品でフィンランド系の名前を使いまくっているから、この話ではスウェーデン系の組織になったわ』
またメタいことを......。
しかし、ジャーブルソンはその先に何を目指しているのだろうか。
『争いのない世の中よ』
「誹謗中傷が飛び交うのに?」
『それは過程よ。人間の99%は世俗的な欲求に支配されている。周りより上に行きたい。せめて平均よりは上にいたい。評価基準は相対的なものだわ。バズりたい、フォローされたいという気持ちも結局それよ』
「まあ、そうかもしれないね」
『でも、相対的ということは、こういう見方も成り立つわ。周りが全員とてつもなく愚かなら、自分も多少愚かでもいいと』
「今回のテストは平均点が低かったから50点でも良かったんだよ、みたいな考え方だね」
『そう。半分しかできていない、という事実は見逃されるわけ』
呆れたようなため息が漏れる。
そういう生き方を完全に否定するのもどうかと思うんだけど、彼女も面倒な存在なので反応しないことにする。
『ジャーブルソンの考え方は究極の絶対評価よ。周囲を一切気にしない人間のみが人類を前に進めることができる。相対評価に縛られた人間は進化をとどめようとするだけの存在で世界には不要。誹謗中傷渦巻くネット世界で絶滅すればいいの』
「とりあえず、色々面倒くさいことを考えていることは分かったけれど、彼らが日本に来るというのはどういうことなんだろう?」
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