第14話 組長との交渉

 たらいまわし。


 そういう表現がピッタリな状況だ。


 僕達は、水清長次郎のところから、今度は組長と話をすることになった。



 彼らはキャラクターカートに乗りたいということで向かっているという。


「そこに行けば、話ができるでしょう。あっしは、他の面々に一時休戦するように伝えておきやす」


「分かったよ」


 果たしてどういう話になるのか分からない。


 暴力団の組長と会うのだって初めてだしなぁ。




 地図を頼りに歩くこと数分。


 カート場のキャストを睨んでいる老人と、若い女性、それに幼児の姿が見えてきた。


 引き続き、貸し切りを守ろうとするキャスト達と、それに納得しない面々という図式が続いているようだ。


 老人の顔がこちらに向いた。歳は70くらいだろうか。背は小柄だ。160ちょっとくらいかもしれない。さっきの水清と比べると体格的な威圧感はないが、表情は鋭い。


「おまえさんが、水清の言っていた者か。わしは元祖任侠組組長の筋尾徹守すじお てつもりだ」


「はい。時方悠と言います」


「……委細は聞いた。おまえさんが直接関与しているわけではないことも聞いた。だが、こんなことがまたあるかもしれないと思うと、黙っているわけにはおれん」


「それはまあ……」


 今後も同じようにどこかを貸切りにするかもしれないという可能性はある。


「今日、ここに来たのはお勤め(懲役刑)を覚悟した者達じゃ。お勤め中に今度はUSN(ユニバーサル・スタジオ・ニッポン)が貸切られたみたいなことになっては、わしらは浮かばれんことになる」


「もうやりませんよ」


「だが、上はまたやるかもしれん」


「では、どうするつもりですか?」


「わしらの系列紙やメディア情報源に流して、スキャンダルとして取り上げさせ、二度とここまでのことが起きんようにするしかない」


「うーむ……」


 憤激砲などで一度ドカーンとやった方がいいというのは理解できる。


 ただ、その対象が僕達だ。それは正直困る。



「筋尾組長、今回の件は明るみになると政府も困るわけだし、貴方達が逮捕されることはないのではないかしら?」


 山田さんが弁解に入る。


「今回の件ではそうじゃろう。しかし、わしらは皆、脛に傷持つ者じゃ。別件などで逮捕されてしまうじゃろう」


「……なるほどね」


 別件があるのもいかがなものかとは思うけど、実際にそういうことになりそうだなぁ。


 とにかく、彼らの義憤を無駄にしたくない、ということだ。


 どうしたものか。




 考えていると、幼児が魔央の方に近づいていた。


「ママー」


 という呼びかけに母親が驚く。


「こら、海斗」


 別の女性に対してついつい母親のように呼びかけてしまう。


 子供あるあるな話で、ちょっと微笑ましい。


 海斗は魔央に両手を伸ばす。魔央は少しためらいつつも、海斗を抱えた。


「……」


 筋尾組長も、母親も、一瞬穏やかな顔になる。


「時方さんや」


「何でしょうか?」


「わしは15の時にこの道に入り、19の時にある人のために悪事をせねばあかんかった。結果として24年刑務所で過ごし、そこから出た後、嫁をもろうて生まれたのが可南子や」


「なるほど……」


 当時19歳ということは一応未成年だよね。それで24年間も刑務所に入るってことは、かなりすごいことをしていそうだけど、中身は聞かない方が良さそうだ。


「だから、可南子は可愛くて仕方ないし、海斗も可愛くて仕方ない。わしは20代と30代の青春がなかった分、子供と孫には当たり前の幸せを掴んでほしいんや。ヤクザのくせに贅沢な奴だと思われるけどな」


「そんなことはないですよ」


「よくよく見れば、あの娘は、わしの初恋の人間によう似ておるのう」


「へぇ……」


 どこまで本当かは分からないけど、一応話を合わせる。



 その間、魔央は海斗を抱っこしてカートの方に向けたりしている。


 海斗が手をもぞもぞとさせて、何かを取り出した。


「あげる」


 お、何か宝物をプレゼントするらしい。可愛いなぁと思ったその手にあったものを確認し、僕は思わず声をあげた。


「あっ!」


 男の子はそういうものが好きだろう。しかし、その手に握られたムカデとゲジゲジの中間のようなものを目に止めた魔央の表情が凍り付く。


「危ない!」


 僕は慌てて奪い取ろうとするけれど、遅かった。



「キャアァァァァァッ!」


 魔央の悲鳴が衝撃波となって、大地を、空気を切り裂いていく。


 衝撃波は反響して更に巨大化し、どんどん数も増えて行って日本を、更には海を、最終的には世界を切り裂いていく。


 数分後、地球の表面はズタズタになっていた。



 世界は、滅亡した。

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