第13話 若頭・水清長次郎
僕は山田さんとともに
「あれ、悠さん。どこかに行くんですか?」
その途端に、
「うん、ちょっと、交渉に……」
「交渉? 面白そうですね」
魔央は何故か興味を向けてきた。
「いや、面白くないと思うけど」
「私も行ってみたいです」
破壊神が仰せだ。
破壊神の希望は絶対だ。
連れていくしかない。
というか、わざわざヂィズニーを貸し切って、魔央もそれほど楽しんでいるわけでもないし、僕は散々な目に遭っている状態だ。
本末転倒というか、誰も得をしていない状態だ。
石田首相だって発覚したら、大変なことになるだろうし。
Win-winという言葉があるけれど、今の状態はその真逆……
Lose-loseだ。
そんなことを考えながら、山田さんの後をつける。
「あれが水清よ」
と指さす先に、一人の男がいた。
「ひえぇ」
これは強そうだ。
身長は190くらいあって、角刈りをビシッと決めていて、サングラスに黒のスーツでビシッと決めている。サングラスで目元が分からないから年齢ははっきりと分からないけど、そんなに年寄りではないと思う。多分、30前後くらいではないだろうか。
「お久しぶりです。クレイジー・タイガー」
滅茶苦茶ドスの効いた低温ボイスだ。
クレイジー・タイガーっていうのはコード・ネームか何かなのだろうか。
「まさかクレイジー・タイガーがヂィズニー締め出しに関与しているとは思いやせんでした」
「私じゃないわ。まあ、享受しているのは認めるけど、実行したのは首相よ」
「やはり、親方日の丸が……」
水清がギリッと歯を噛んだ。強くかみしめたせいか、唇の端から血が垂れてくるのが怖い。
「クレイジー・タイガー、こいつはいくら何でも許せねえことですぜ。親父さんも言っていましたが、あっしらのような渡世者が締め出されるのは仕方ねえ。しかし、今、ここでやっているのは、一部の者以外全員の締め出し。ここは日本じゃなくなっちまったって言うんですかい?」
「よんどころなき事情はあるのよ。ただ、結果として失敗だったわね」
「よんどころなく事情ですかい……。まさかクレイジー・タイガーの姐御からそんな言葉を聞くとは思っていやせんでした」
長次郎、何だかカッコいいぞ。
僕の立場がなくなりつつある。
「……ところで後ろの二人は?」
あ、気づかれてしまった。
山田さんが僕達二人のことを簡単に説明する。
水清はフーッと溜息をついて、煙草に火をつけようとして。
「あっと、ここは禁煙だった」
と、慌てて火を消す。
古風と言っていたけれど、古き良きヤクザ的な感じなのかもしれない。
「……事情は分かりやしたが、あっしはともかく、残りの連中は聞きやせんぜ。全員、長期懲役を覚悟して来たというのに、こういう事情だから大人しく引き下がれ、なんていうのは」
確かに長次郎の言う通りではある。
ただ、僕達としても他にどうすることもできないし、まさか内閣やら国会をどうこうしろとも言えないしねぇ。
「でも、まさか時方君と魔央さんを殺すわけにもいかないでしょ? 全員で内閣に抗議にでも行ったら?」
山田さんには僕のような配慮は全くない。遠慮することなく、他人には言えないことを簡単に言ってしまう。
痺れたり憧れたりはしないけど。
長次郎はしばらく考えて電話を取り出した。どうやら組長と話をするらしい。
「……そうなんです。ちょっと連れて行っていいですか? 分かりました」
電話を切って、僕の方を見る。
「こうなるとあっしに決めることはできねぇ。親父さんと海斗坊ちゃんと話つけてもらえますかい?」
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