第12話 四歳の誕生日

 何かと怪しいところの多い山田狂恋によると、ヂィズニーランドの入り口付近で、暴力団グループが機動隊を強襲して、突破したという。

 事実だとすれば、由々しき事態だ。

「……無線によると、どうやら突っ込んだのは『元祖任侠組がんそにんきょうぐみ』らしいわ」

「元祖任侠組?」

「平成以降、ヤクザの世界は金に汚染されて堕落してしまったと主張していて、古き良き喧嘩だけに頼るヤクザの復権を目指している、業界の中でも古い体質の組ね」

「古いのはともかく、喧嘩だけに頼るのは良いことではないと思うんだけど……」

 僕のツッコミを無視して、山田さんは無線を聞いている。

「『こんなことは許されんことじゃあ! わしら渡世とせいモンが排除されるのは仕方ない! それはわしら覚悟しとる! しかし、天下のヂィズニーランドがカタギの人を理由なく排除するなどあってはならんのじゃあ!』と怒っているわ」

「……」

 全くその通りである。

 僕が提案した話ではないのだけど、享受している者としては申し訳ないとしか言いようがない。

「古風な組だけに、戦闘能力は相当高いわね」

「しかし、今時、四百人も集まるものなの?」

「……これについては、多分、別の組でも同じようなことを考えている人達が多いんじゃないかしらね?」

「えぇ、暴力団の有志連合がやってきたわけ?」

 うーむ、僕達が後ろめたい状況で、暴力団の有志連合とか嫌だなぁ。


 というか、彼らがここにやってきたら、どうなるの?

 まさか山田さんと銃撃戦とかになるんだろうか?

 堂仏の友達?の動物達もいるだろうから、大変なことになりそうだ。

 いいのだろうか?

 ヂィズニーランドが戦場になってしまっても。


 山田さんはその間ずっと無線を傍受している。

「どうやら、組長の四歳の孫が今日誕生日でヂィズニーに来たかったみたいね。それが前日にいきなり一日貸し切られてしまったことで、孫が大泣きしたみたい。娘から『お父さんのせいで海斗かいとまでこんな目に』と責められてキレてしまったらしいわ」

「暴対法って、確か娘や孫には影響がないよね」

「暴力団に使用させる目的で協力すると共犯になるかもしれないけど、娘や孫がヂィズニーで遊ぶ権利まで否定はしていないはずよ。これがまかり通ると、全員大変なことになるから、有志連合を組むに至ったみたいね」

「なるほど……」

 強硬突破はやりすぎだ。

 ただ、ヂィズニーを楽しみにしていて、前日になっていきなり貸し切りで使えないとなれば怒るのも仕方ない。みんな、自分もいつそうなるか分からないと考えたから、400人というすごい人数が集まったのかもしれないなぁ。


「……ちょっと話し合いに行ってくるよ」

 貸し切り自体が後ろめたいというのもあるのだけど、そもそも全然貸し切っている感がない。

「変なDTSJ魔術師は来るわ、幽霊は出るわ。全然貸し切っている感じがないよ。正直、優先権くらいで普通にしてもらった方が良かったかもしれない」

「それは無理な相談かもしれないわね」

「どうして?」

「私達のような美人数人がいて、しかも、悠ちゃんとおまけ二人はまあまあイケメンと来れば、周りがうるさくて仕方ないわ」

「……ヂィズニーじゃなくて、別のところの方が良かったかもね。まあ、とにかく孫さんが使えればそれでいいんでしょ」

「ちょっと待ちなさい」

 山田さんは携帯電話を取り出して、電話を始めた。

「……えぇ、そうよ。これから行くわ」

 手短に何かを伝えて、立ち上がった。

「行きましょう」

「行くって、どこに?」

「話し合いに行くんじゃなかったの? 話の通じる奴と話をしに行くのよ」

「……何で知っているの?」

 返事を聞きたいような、聞きたくないような。

 ともあれ、僕の質問に山田さんは「フッ」と笑う。

「『元祖任侠組』若頭わかがしら水清長次郎みずきよ ちょうじろうは中々の使い手よ。今までは共闘体制が多くて、敵対することはなかったけれど、いざ対決するとなれば、私も本気でかかる必要がある相手ね」

「はぁ……、さいですか」

 やはり、ロクでもないことをしているようだ、山田さんは。

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