第11話 信仰の価値と新たなる難題
川神先輩は喫茶店の中にいた。
というか、僕と四里以外の全員がそこにいた。全員、レモンスカッシュとかアイスカフェオレとかを飲んでいる。
「お~、時方君、どこに行っていたのよ」
「先輩こそ、どこに行っていたんですか。探していたんですよ」
「む? この私を探しに行っていた? さては!」
先輩の目がキランと輝く。鋭い勘で幽霊を浄化してほしいということに気づいたのだろうか?
「さては、今後一週間のローテーションが気になるのね! 特に金曜日は、これというピッチャーがいないものね。私もこの日についてはちょっと迷っているのよ」
「……そっちじゃありません」
そうだった。この先輩はこういう人だったんだよな……。
「……面倒くさい仕事とかだったら、木房か山田に頼んでくれる?」
そして、違いそうと見るや、他人に投げようとする人だった。
「先輩の浄化の力が必要なんですよ」
僕は、先程の幽霊夫妻の話をかいつまんで説明した。
先輩はそれを聞いた後、ズッと音をたてて残っていたレモンスカッシュを飲み干す。
「……それはできないわ」
冷然とした様子で言いきる。
「えっ、どうしてですか?」
「そういうことを言い出したら、それこそ何億何兆という、似たような立場の人……霊がいるわけでしょ。その中から彼らだけ助けてあげる理由がないわ。もちろん、彼らは気の毒かもしれないけど、政治家なら陳情に来た者から順番に何とかしてあげるのかもしれないけど、私達は正しい徳を体現する者として、そういう不公平なことはできないのよ」
う、ううむ、予想以上に厳しい反応だった。
でも、ボイスターズだったら特別扱いしそうだよな。説得力としてはあまりないようにも思うのだけれど。
「実際、そういう時に信仰の力に頼るべきなのよ。絶望しそうな時には謙虚に神にすがるべきなのよね」
そういえば、先輩は"一応"信仰を司る七使徒だったっけ。
「困った時に神に頼ると、お布施とかドーンと取られそうですけれど……」
「それは立派で金をかけているところに行くからそうなるのよ。金のかけた寺社に行けば、それは金を取られるわ。そうじゃなくて」
先輩は自分の胸のあたりに手をあてる。
「神は自らの心を通じて語り掛けてくるのよ。世界遺産の十字架でも、粗末な十字架でも、心のありようが正しければ、神は必ず応えてくれるわ」
「……」
「確かに子供がそんなことをした社会では生きづらいでしょう。でも、別に日本である必要もないでしょ。自殺するつもりの覚悟があるのなら、それこそ全く違う国に行って、そこで贖罪のための奉仕活動を行うことだってできたわけじゃない。それをせずに安易に自殺するっていうのは、私に言わせれば逃げね。言い過ぎと言われるかもしれないけど」
「おぉぉ」
「……な、何なのよ?」
僕だけでなく、周囲も全員、思わず声をあげて尊敬するような眼差しで先輩を見ていた。全員、似たような顔をしていることに違和感を覚えたらしい。
「いや、先輩って、そんな先輩みたいなことも言うんですね……」
四里が代表して答えた。
いや、僕も全く同じことを考えたよ。
数分後。
先輩は「みんなして私を何だと思っていたんだ」といじけてしまった。
僕と四里もドリンクを頼んで、しばらくまったりと飲茶タイムだ。
少し視線を剃らした先に山田さんがいた。
彼女はしばらくスマホを眺めていたけれど、不意に鞄の中から何かを取り出した。いかにも怪しい機械装置のようなものを取り出した。そこから伸びるイヤホンを耳にはめて、一人、真剣な面持ちで耳を傾けている。
「それは何なの?」
「……無線傍受装置よ。機動隊の無線を傍受しているわ」
「……許可を得ているの?」
「どうして、私が許可を受ける必要があるの?」
ですよねー。聞いた僕が間違っていたよ。
「何を勝手に傍受しているわけ?」
「……北側の入り口で、機動隊と暴力団が銃撃戦を繰り広げているわ」
「何ぃ!?」
「機動隊百人に対して、暴力団員四百人が奇襲をかけたみたいで、間もなく機動隊が突破されそうね」
「……それはつまり、四百人くらいいる暴力団がヂィズニーランドに飛び込んでくるということ? 全国ニュースになりそうな話だね?」
「なりませんよ」
四里があっさりと答える。
「ヂィズニーのことをニュースにしたら、今日、私達が貸し切りにしていることがバレるじゃないですか。石田総理がまた野党からつるし上げを食らいますよ」
「ということは、ここで何人死んでも、ニュースにはならないわけ?」
「当然ですよ」
うわぁ、守っている人達、報われなさすぎる。
というか、暴力団員が突っ込んでくるって大変じゃないか!
どういうことなんだ?
まさか、暴力団も魔央の力を使おうとしているのか?
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