第10話 救いのない者に救いを
注意:この話にはかなり暴力的な表現が含まれています。
どうして、こんなことになったのか。
僕は四里泰子とともに、地獄へと降りて行った。
そこは地獄のような光景だった。
いや、「地獄だから当たり前じゃないか」と言われればそうなんだけれども、とにかく地獄だった。
少し離れた道を大勢の人間が歩いている。全員、泣いたり喚いたり、服どころか体がボロボロで男女の違いさえ分からない。
そうした人達を、日本ならば鬼だろうし、西洋ならばオーガとでもいうのだろうか、巨大で醜悪な顔をした男達が蹴ったり殴ったりしている。
その度に肉片が飛び散ったり、骨が折れたりしているようだ。しかし、それらはすぐに再生されて彼らはどんどんボロボロになりながら歩いている。
時々、動けなくなったのか、その場にとどまる者がいるけれども、そういう人は鬼やオーガに踏みつぶされる。それだけで済まず、後ろから歩いてくる人間達に踏まれることになる。回復はするが起きることもままならず、ただ延々と踏みつぶされる。
これぞ地獄。
まさに地獄。
「ひぃぃぃ!」
四里が悲鳴をあげて僕の背中にしがみついてきた。
自分から「行きましょう」と言ってきたのに、それはないんじゃないか。
「と、と、時方さん、あれを見てください」
四里が指さす方向を見た僕も「ゲッ」と叫び声が漏れた。
彼らが列をなして歩いている道は、ずっと続いているように見える。
しかし、それらは何百キロも先で曲がりくねっていて、いつしか繋がっている。
つまり、あの道を歩かされている面々はゴールもないつながった道をただ、ひたすら歩かされている。鬼やオーガに殴られたり蹴られたりしながら。
「あの中に、私達の息子・
幽霊が泣きながら説明する。
「永遠に続く苦痛の中、彼らは生きていたことを悔い、生まれてきたことを恨み、両親や先祖達を呪うことになります」
確かに、苦しみの声の中に誰かを責めるような声は聞こえる。「こうなったのは親父のせいだ」、「あいつがあんなことをしたから」という怨嗟の声、呪いの声は無関係の自分でも恐ろしい思いにかられてくる。
そうか。
僕は、彼らが世界を滅ぼしてほしいと思う理由を理解した。
重井成蔵は確かに許されないことをした。彼が死後、ああいう目に遭うのは自業自得なのかもしれない。
しかし、彼の両親にとってはどうだろうか。
全財産を寄付して心中した、彼らの霊が聞かされるのは息子の永遠の呪いの声であり、息子が永遠に救われないという事実である。そんな状態でこれから先、希望のないまま幽霊として漂うのは確かに絶望しかない。
いっそ、世界ごと終わらせてくれと思う気持ちも理解できる。
彼らだけではないのだろう。
兄弟姉妹もあれば、祖父母孫のような関係もある。同じような苦しみを味わっている者が、世界の開闢から無数に存在しているのだとしたら、それは本当に報われない。
二十分で耐えられなくなり、僕と四里は幽霊夫婦とともにヂィズニーランドに戻ってきた。
うぅ、亡者達の呪いの声がまだ耳に残っている。
「時方様、お願いいたします。私達を解放してください」
「……うん。あの有様を見せられると、いい加減な思いで滅ぼしてくれと言っているわけではないことは理解しました」
僕は大きな溜息をついた。
確かに酷い有様ではあった。
だけど、これだけで世界を滅ぼすことを決めるわけにもいかない。
「時方さん、先輩なら何とかできるんじゃないでしょうか?」
「川神先輩に……、地獄を浄化してもらうの?」
「地獄は浄化できないでしょうけれど、残された人達はできるのでは?」
「あぁ……、なるほど。先輩はどこにいるんだろう?」
「皆さんと一緒にアトラクションに乗っていたと思いますが」
「そうか。行ってみよう」
というか、皆がアトラクションを楽しんでいるのに、僕が行ったのは地獄。
あまりにも不公平過ぎないだろうか……。
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