第9話 地獄への招待
今日、僕達は貸し切りとなったヂィズニーランドにいるはずだった。
しかし、日本政府にとって誤算なことに、幽霊が立ち入ることは可能だったようだ。
「世界を滅ぼす?」
そして、その幽霊二人から、まさかの世界滅亡の依頼。
この二人、僕のことを知っているということなのだろうか?
「どうして世界を滅ぼさなければいけないんですか?」
それ以上に気になるのは、世界を滅ぼしたいという動機だ。
もちろん、幽霊は既に死んでいて、何らかの理由で成仏できない人達だ。
そういう人達だから何か恨みを持っていても不思議はない。
ただ、世界を滅ぼせというのは相当なことじゃないかな。
普通は、「自分達を殺した●×に復讐してくれ」とか「▽◇のせいで自分達は破滅したから仇討ちしてくれ」となるはずだ。世界全部というのは中々ない。
僕が首を傾げていると、幽霊二人も理解したらしい。
「理由を説明するためには地獄に行く必要があります。ついてきてもらえますか?」
「うっ……」
僕はヂィズニーランドに来たはずだ。
ヂィズニーランドというのは、楽しむための場所のはずだ。
それなのに、僕は地獄に誘われている。
一体、全体、どういうことなんだ、これは。
あと、もう一つ、気になることがある。
「……どうして僕なんですか?」
世界を滅亡させたいなら、僕ではなく魔央に近づく方が賢い。直接的に滅ぼせるのは彼女だけだからね。
僕が仮に「世界は滅ぶべき」と考えたとしても、僕一人で世界を滅ぼすことはできない。
まあ、やろうと思えば魔央をけしかけて世界を滅ぼして、最後の選択で「いいえ」を選べばいいのだろうけれど、回りくどい。
幽霊二人は顔を見合わせる、どう言ったらいいか迷っているのだろう。
しばらくして、男の方が口を開く。
「時方様は、この世界を正しすぎる方向に導く人だと聞きました。ですので、時方様なら私達の苦しい胸の内を理解してくれるのではないかと思いました」
「苦しい胸の内?」
「私共は過去に大きな過ちを犯しました」
「大きな過ち? 何をしたんですか?」
「……
「重居成蔵?」
誰だ? 全く分からない。
さっぱり分からずどう答えたものかと考えていると、背後から声がした。
「重井成蔵は、11年前に無差別同時殺人事件を起こして死刑になった人物ですね」
「うわっ、四里さん、いたのか」
「時方さんが、急に足を止めて、人魂のようなものと話をしているので気になって移動してきました」
人魂……? 四里にはこの幽霊は人魂のようなものに見えるのか。
「はい。その成蔵の両親が私達です」
「何と!?」
「私達は自分達が受けた教育と同じような教育を成蔵に与えました。しかし、成蔵はそれに反発し、私達に暴力を振るうようになりました。恐れおののいた私達は、成蔵の希望をかなえて引きこもらせ、生活費を渡してきました」
むむ、社会生活不適格者が憎悪を募らせて殺人事件を起こしてしまったということか。
「私夫婦がもっとしっかりと向かい合っていれば、あのような事件は起きませんでした」
「時方さん、大きな記事にはなりませんでしたけれど、重井成蔵の両親は死刑執行の後、全財産を被害者支援団体に寄付して、その後心中したということです」
「うわ……」
責任を感じていたということなのだろうか。やるせない話だ。
「ただ、それで世界滅亡につながるかな……」
「それを分かっていただくには、地獄に来ていただくのが一番なのです」
またさっきの話に舞い戻ってしまった。
地獄を見なければ分からない。
地獄はそんなに酷いところなのかな?
四里は乗り気のようだ。
「時方さん、記者の血が騒ぎませんか? これは絶対に取材すべきですよ」
「僕は記者じゃないんだけど」
とはいえ、地獄まで行く機会なんてまずないだろう。
一度くらい行ってもいいのかもしれない。
「……分かった。ついていってみるよ」
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