第8話 リアル地底へのアトラクション・1

 翌朝、ホテルのビュッフェで朝食をとると、僕達はヂィズニーへと向かった。

 いつもなら、朝から行列が並んでいるのだろうけれど、今日は閉園とあらかじめ決まっているから、誰もいない。

 本当に貸し切り状態だ。

 しかし、石田首相の目論見では、僕と魔央が仲良くなることなのだろうけれど……


黒冥くろやみ様にはこのアトラクションがオススメであります」

「ランチはこれを食べましょう」

「ボイスターズのデーゲームの時間帯は野球観戦をしましょう」

「夜になったら、ビデオにも映らないし、ヤスオも中に入れていいかな」

「パズル的なものも組み入れた方が、頭の体操にもなりますよ」


 使徒達を交えてキャッキャウフフしていて、完全な女子会の様相を呈している。

 正直、僕の入る余地は無さそうだ。

 ちなみに一人だけいない正義の使徒・四里泰子よんり やすこは何をしているかというと。

「これに乗って、次はこれ……」

 どうやら、一日でどれだけ多くのアトラクションを楽しめるかを検討しているらしい。多分、なるべく多くのアトラクションに入って、そのレポートでも作ろうと考えているのだろう。


 中に入ると、魔央達は最初のアトラクション・ワイルドアニマルに向かおうとした。

 野生動物のいる森林を回るというものだが、堂仏都香恵どうぶつ つかえが止める。

「動物なんて、ボクの友達がいるからわざわざ行く必要もないよ。ね?」

 と言うと、十羽のオオタカと十頭のヒグマが頷いている。オオタカは足を、ヒグマが背中をアピールしている。「俺の背中で風を感じろ」、「俺とともに空を舞おうぜ」というところのようだ。

 確かに、彼らとともにいる方がよりワイルドな世界を味わえそうだ。

「そうですね。じゃあ、この地底二万マイルに行きましょうか」

 魔央が選んだのは、地底の底まで行き、地球の神秘に迫るというものだ。実際は暗い中をトロッコで進むジェットコースター的なもののようだけれど。

 女性陣はすいすい中に入っていき、後には僕と武羅夫、武蔵が残された。

「悠、行かないのか?」

「いや、みんな楽しそうだし、それならそれでいいかなって」

「悠はそういうところで引いてしまうからダメなんだ。よし、彼女達が何を話すか盗聴器をつけることにしよう」

 武羅夫がジャジャーンと叫んで、盗聴器を取り出した。

「やめておいた方がいいんじゃない?」

 魔央はともかくとして、山田さんはすぐに気づきそうなものだけど。

「心配するなって」

 そう言って、武羅夫は盗聴器をこっそり取り付けに行った。武蔵も何故かついていく。

 見つかってトラブルになりそうなものだけど、まあ、あれはあれで楽しそうだから、それでいいのかもしれない。

 僕は付近を見回っておこうかな。

 そう思った瞬間、「もし、時方様」と声をかけられた。


 とても億劫だ。

 今日、このヂィズニーランドは貸し切りのはずである。

 そこに僕の知らない人間が、僕のことを「時方様」と呼ぶ。

 面倒ごと以外考えられない展開だ。

「……僕を呼んだ?」

 とは言っても、無視するわけにもいかない。

 声の方向を見ると、ボロボロのローブをまとった背の低い二人組がいた。ローブの奥の顔を覗き込むと、どちらも60歳くらいで、男女一人ずつ。

 夫婦だろうか。

「はい。今日、ここに時方様が来ると聞いて、待っておりました」

 二人がローブを外した。やはり初老の男女だ。ローブはボロボロだけど、その下の身なりはそれほど悪くない。ひと昔前のゴルフウェアのような古臭いけど、爽やかな印象のものだ。

「今日は僕らの貸し切りだと聞いていたけど?」

「それは人間の話でございます。私達夫婦はもう、死んでおりますので」

「……死んでいる?」

「有体に言えば、私達は幽霊なのでございます」

 初老の二人は「自分達は仙台から来ました」というノリであっさりと幽霊だと名乗った。


 一瞬、頭を抱えたくなるけれど、悲しいことに僕はこういうことには慣れ切ってしまっている。

「幽霊なのね。幽霊と協力できることはないはずだけど、僕に何の用なの?」

 幽霊二人に対して「奇遇ですね。僕は盛岡からで東北同士ですね」くらいのノリで返事をしてしまう。

 初老の幽霊二人はお互いに顔を見合わせて、その場に土下座した。

「えっ?」

「お願いします! 時方様、どうかこの世界を、滅ぼしてください!」

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