第7話 飛行機がやってくる?

 突然襲撃に来た二人の魔導士達。


 僕達……というか、ここにいた使徒達が撃破したけれど、何と彼らは近くを飛んでいるジェット機をヂィズニーランドホテルに墜落させると言っている。



 確かに遠くの方から、飛行機が飛んでいるような音が近づいてきている。


「本当に墜落してくるの?」


 本当なら一大事だ。でも、ここに飛行機が落ちるかもしれないということをどうやって確かめたらいいんだろうか。



『知りたい?』


「……知恵の使徒か?」


『そうよ。知りたい?』


「……知りたい」


『羽田の管制塔にハックしたから、様子を聞くといいわ』



 知恵の声とともに、緊迫した声が入ってきた。



『NHU(日本飛行連合)34564、どうにか海に向かうことはできませんか?』


『こちらNHU34564! 全く何もできません! オートパイロットも手動装置も全滅です! 墜落します!』


 どちらも泣きそうな声だ。声と声の合間には操縦桿を引いたりしているのだろう、気合を入れるような声も聞こえてくる。


 近くにあったテレビがパッとついた。そこに湾岸と思しき夜景が映る。


 どうやら飛行機の機首カメラのデータを映しているようだ。正面にはホテルがある。はっきりとは分からないけど、多分、ヂィズニーランドのホテルだろう。



「……」


 全員が静まり返った。どうやら、ホテルに墜落するというのは間違いないことらしい。


「……仕方ないであります。飛行機の乗員乗客には気の毒ですが、全員消えてもらうであります」


 木房さんが宣言した。


「飛行機ごと、消すの?」


 確かに彼女の黒い染みは包んだものをこの世界から消してしまう力がある。

 飛行機一機丸ごと飲み込めるのかという疑問があるけれど、それができるのなら、彼女ならこの窮地を脱することができるかもしれない。


 しかし、それは本人も言うように飛行機の乗員乗客を全員犠牲にすることを意味する。


 いくら何でも、そこまでやってしまっていいのだろうか?


「知恵の使徒! 飛行機のシステムを乗っ取って、どこか別のところに着地できない?」


『……私を誰だと思っているの? 単なる信号装置を操るくらい、訳ないわ』


「良かった。じゃあ頼むよ……」


『……人にものを頼む時には、とるべき態度というものがあるんじゃない?』


「えっ……?」


 いきなり何を言いだすんだ?


 人に物を頼むって、この緊急事態で、そんなことを言われても。


 僕はそう思ったけれど、知恵の使徒はそう考えないらしい。


『お願いします。助けてください、知恵の使徒様って土下座して頼むべきじゃないの?』


「何だって!?」


『いいのよ、やりたくないならしなくても。私には飛行機を助ける義務はないわ。そもそも博愛の力でみんなは助かるわけだから、したくないならしなくていいんじゃないの?』


 な、何て奴だ。


 飛行機の乗員乗客を見捨てたくないという僕の想いを知っていて、土下座を要求するとは。人間として最低だ。いや、一度も姿を見ていないから、人間ではないのかもしれないけれど。


 そうだ、確かに姿を見ていないし、知恵の使徒が現れる時というのはAIなり通信機器なりを通して現れている。


 ひょっとしたら、彼女はMA-0を超えるAIのような存在なのかも。



「……」


 と考えているうちに、更に貴重な時間が失われる。


 選択の余地はない。


「みんなでするんですか?」


 魔央が尋ねてきた。


『みんなはいらないわ。悠ちゃんだけでいいから』


 何でだよ、とどこかの芸人みたいに激しく突っ込みたくなるけれど、もう仕方ない。


「……お願いします、助けてください。知恵の使徒様」


 僕は言われた通りに土下座してお願いした。


『仕方ないわね。そこまでするのなら、何とかしてあげるわ』


 白々しい言葉とともに、彼女の気配は消えた。


 同時に、ホテルを映していたテレビは、ジェット機のコックピット内部のような場所を映す。そこでパイロット達が悲痛な声をあげながら色々な操作をしている。色々危険なのだろう。警報音が鳴りまくっていた。


『……たかがDTやSJ上がりの魔法で、私に勝てると思っているの?』


 突然、パイロット達の表情が変わった。


「操縦が回復した!?」


「動く! 動きます!」


「これなら不時着が……、いや、ひょっとしたら空港まで行けるかもしれない! こちらNHU34564、奇跡です! 操縦が回復しました!」


『こちら羽田。NHU34654、本当ですか?』


「はい! 緊急着陸を試みたいです」


『緊急着陸了解。最優先で着陸してください。信じられない、何ということだ』


 飛行機は完全に助かったようだ。機長が涙を拭きながら操縦を再開した。



 どうやら最悪の事態は免れたらしい。


「しかし、どの程度壊れていたんだろう?」


『ケーブルというケーブルが魔法で寸断されていたわ。DT・SJの執念を感じさせるわね』


「そんなに酷いの? というか、どうやって直したの?」


『貴方には考える力がないの? 要は信号が届けば動くのよ。それぞれのポイントに必要な信号を送りつづけるだけ。余裕でしょ』


 ケーブルが寸断されているからコクピット達が操縦してもその信号やデータが届くことがない。しかし、知恵の使徒は自力でその信号を作り出し、寸断されたケーブルを無視して、直接機器に届けているようだ。


 すごい情報処理能力だなぁ。


 やっぱりAIか何かなんだろうか。

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