第6話 魔術師達の怨念

 人は30歳までDT童貞SJ処女でいると、魔道士として覚醒するケースがあるらしい。



 目の前にいる二人、堂手井どてい持内もてうちの二人はそうだという。


「あのう……」


 魔央まおがおずおずと質問する。


「それなら、お二人がそういう関係になれば解決するのではないでしょうか? キャッ! 恥ずかしい!」


 まずい!


 魔央もかなり内気なところがある。恥ずかしいだけならともかく、「恥ずかしくて顔を見せたくない」→「世界がなくなってほしい」という華麗な論理飛躍で世界を滅亡させかねない。


「先輩、魔央を!」


「了解!」


 川神先輩が大きなボイスターズユニを取り出し、魔央の頭の上からボフッと着せる。


「フッ、ボイスターズユニはカッコいいから誰が着ても似合うけど、一際似合うわよ」


「そうですか?」


 何という解決策だと思ったけど、魔央の意識が世界滅亡から離れたので、ひとまず良しとする。




 僕は二人と向き直った。


 確かに魔央の言う通り、「繋がれない男女が一緒に行動しているのなら、君らがくっつけばいいんじゃないの?」というのは間違いない。


 堂手井も持内も顔はそんなに悪くないのだし、年齢も同じならちょうどいいんじゃないだろうか?




 と思ったのだけど、二人はそうじゃないらしい。


「何のために30までDTだったと思っているんだ!? 俺の言うことだけを聞いてくれる超絶美少女のエルフ娘が出てくれるからだろう! 誰がこんなモテナイダメ子と!」


「そうよ! 童貞だぞ! みたいなイカ臭い男とどうして一緒になれるって言うの!? そのうちあたしだけを愛してくれる大手企業のイケメン重役が出てくるわ!」



 あぁ、ダメだ、この二人。



 一般人の考え方と裏腹に、ある程度の年齢まで相手がいない場合、条件を下げるのではなく上げるみたいな話を聞いたことがある。「ここまで待ったから、条件を譲れない」とか、「ここまで待ったのだから理想の相手が出てくる」と都合のいい夢を見てしまうか。


 この二人もその手合いのようだ。



「でも、エルフじゃないけど、あの子はいいよね。恥ずかしがる素振りとか可愛いし」


 まずい!


 堂手井の意識は魔央に向かっているようだ。


 エルフ娘どころか破壊神なんだけれど、この手合いにはそんなことを言っても通用しないだろう。


「こら、待て! うわっ!」


 魔央と川神先輩に近づこうとする堂手井を止めようとしたけど、持内が雷を打ってきて接近できない。


「誰か、奴を止めて!」


 僕は叫ぶけど、ルート上には誰もいない。


 今、堂手井の前には魔央と川神先輩へのルートがまっすぐに伸びていた。


「うぉぉぉ!」


 土手井が二人に飛び掛かろうとしたところに。



 ヒュッ!



 風を切る音がして、途端に堂手井の悲鳴があがる。


「うわぁぁぁ! 目をやられた!」


 よく見ると、上空に鷹がいる。この鷹が堂手井の目を攻撃したらしい。


「危なかったね~」


「堂仏!」


 そこには、動物を意のままに行動させることができる節制の使徒・堂仏都香恵どうぶつ つかえがいた。


「僕の携帯に、急に『賢者学会が動いているからヂィズニーに助けに行きなさい』ってメールが来たんだよ。良かったよ、間に合って。ほら、ヤスオ!」


『ウオオオォ!』


 ゴリラのヤスオが目を押さえている堂手井を持ち上げて、上空に放り投げた!


「もらったわ!」


 M16を取り出した山田さんがダダダと打ち込み、それに応じて堂手井の身体がボロ雑巾のように宙を舞う。


「浄化せよ!」


 そこにとどめとばかり川神先輩の光が襲う!


 土手井は塵となって消え去ってしまった。うむむ、とんでもない奴だが、ここまでやるのはちょっと可哀想な気も。


「ひぇぇぇっ!」


 と、持内の悲鳴が聞こえてきた。


 見ると、黒い染みに包まれて今まさに消え去らんとしている。もちろん、その彼女の視線の先には木房さんの姿がある。


「魔導士になるようなDT・SJは消え去るであります」


 うーん、いきなり襲ってきた二人も酷いけど、君達も大概酷すぎるよね。


「フ、フフフフ、アハハハハ!」


「……む? 恐怖で気が触れたでありますか?」


「あたしを殺しても無駄よ! たった今、羽田空港に向かっているジャンボ機を魔法でぶち壊したわ! このヂィズニーランドはジャンボジェットの下敷きになるのよ!」


「何だって!?」


「アハハハハ! 賢者学会、万歳!」


 最後に高笑いをして、持内は黒い染みに飲み込まれて行った。



 その直後、上空から何かが落下してくるような音がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る