第5話 魔術師の復讐
高速での足止めがかなりかかり、ホテルに着いたのは19時過ぎだった。
もちろん、それで何か支障をきたしたということはなかった。
事情が事情だということは、ホテルも理解しているし、何と言っても日本国政府公認の貸し切り状態だ。
僕達九人に対して、ホテル従業員総出で対応という何とも申し訳ない状況である。
20時過ぎから宴会場でバイキングによるパーティーだ。
『世界の未来と、君達の幸運を願って乾杯!』
石田首相の遠距離通信もあり、楽しいムードでディナーパーティーが始まった。
ヂィズニーランドのキャストやら着ぐるみにニッキーやツンデレラに囲まれ、楽しいひと時を過ごすことになる。
そんなこんなで30分ほど。
ホテルの入り口の方が騒がしくなってきた。
何だろう。僕は会場から廊下の方に視線を向けた。
何人かのキャストが「こちらはダメです!」と声をあげている。
そこに「うるさい!」という叫び声がして、次の瞬間、キャストが数人吹っ飛ばされた。
「……何?」
僕は驚いて、廊下を凝視した。
そこに怪しげなローブを着た二人の男女がいた。
「邪魔するなら死ね!」
「そうよ! あたしの大魔法を食らいなさい!」
どうやらこのローブを着た二人の男女が騒動の発端らしい。
しかし、大魔法?
いや、正直、ここ最近は色々なことがありすぎるから、魔法の使い手がいたとしても「ああ、そうなのね」くらいしか感じられないけれど。
程なく、男女の自称魔術師がパーティー会場へと向かってきた。
「武羅夫! 武蔵!」
こういう時のためにいるだろう、警護の名前を呼ぶ。
それまで楽しそうにシャンパンを飲んでいた二人も非常事態に気づいたらしい。「ハッ!」と叫んで、アクロバティックな動きをして廊下へ向かう。
「曲者! ここをどこだと心得ているか?」
武蔵がそう言って、二刀流を抜いて自称魔術師に襲い掛かる。
「ファイアボール!」
男の手から炎の球が放たれて、武蔵の木刀に直撃した!
そのまま彼の羽織にも燃え移る。
「ぬおおおっ!? 熱い! 熱いでござる!」
武蔵は二刀流を振り回して、ついでに自身も転がり回って火を消そうとしている。
うん、まあ、薄々分かっていたよ。
君があまり役に立たないことは……。
二人は武蔵と武羅夫を撃退して会場まで入ってきた。
そこで初めて、皆の視線も二人に向く。
「フハハハハ! 大魔術師
「同じく、大魔術師
「……はい? 童貞だぞう、もてないだめこ、でありますか?」
「違うわ! 童貞だと思って馬鹿にしているのか!? ファイアボール!」
名前はともかく、二人の魔法というのはどうやら本物のようだ。炎の球が奥の空いたテーブルを直撃して燃え始める。
しかし、その名も高いヂィズニーのキャスト達がすぐに消火器を持ち出して、消火活動にあたる。
「こともあろうに、10代のリア充共がヂィズニーホテルを貸切って、乱交パーティーをすると聞いた! この天才の僕が! 未だ
「そうよ! この美少女魔術師為子も
二人は何かに怒っているようだ。
ただ、僕には何に怒っているのか、さっぱり分からない。
「すみません、堂手井さんと持内さん」
「何だ?」、「何よ?」
「お二人は魔術師なのですか?」
僕が尋ねると、二人揃って笑いだす。
「よくぞ聞いてくれた! 君達も伝承として聞いたことがあるだろう、30を過ぎてもDTやSJである者は魔法を使えることがあるということを!」
「……そうなの?」
僕は後ろにいるみんなに尋ねる。
「知らないであります」
「30過ぎてDTやSJは悲しいわ」
「IQ300だけど、そういう情報は知りません」
「週刊憤激ではオカルト系記事は二か月に一回です」
「神の名の下に、30過ぎてDTやSJは救済の見込みがないと聞いています」
みんなが散々な答えを返す。特に川神先輩、ちょっと酷すぎないですか?
そんな中、魔央がポンと手を打った。
「私、知っています! 昔、そういうドラマを見たことがあります!」
そうなんだ。
じゃあ、全くの間違いではないのだろうけれど、この二人は何をしに来たのだろう?
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