第2話 "知恵"の使徒、出現

「では、説明しましょう」


 四里泰子よんり やすこはそう言ってサングラスをこれみよがしに外す。


 お、結構幼い風貌だ。ビシッとした白スーツと裏腹、女子高生のような顔をしている。舐められたくないからサングラスをつけているんだろうか?




「マスターを含め七使徒は、最後の審判で生き残るべき人類を厳選し、人類の更なる発展を目指すことになっています」


「僕が完全にその一味なのは不本意だけど、そういうグループだということは認めるよ」


「七使徒はマスターと行動を共にしなければいけないのですが、知恵と希望の二人はそれに反する行動を取ったのです」


「反する行動?」


「つまり、二人は人類の選別にこだわらない方法によることにしたのです。これは私達からすると大きな裏切り……反逆に他なりません」


「つまり、二人は人類を残す方向というわけ?」


「そうです。とんでもないことです」


「そんなことないでしょ?」


 僕はむしろ、その二人を尊敬したくなったよ。でも。


「負け組救済のためには、人類は減らさなければならないのであります」


「極論すれば、この世界には時方君と私いがいいらないの」


「ギガンテスやペンギンズのファンに生きる価値なんて、認めなくていいわ」


「人類を救えるのはAIだけ。ここにいない堂仏さんもまた、そうでしょう」


 みんなに否定されました。ブレないなぁ。


「zzz……」


 魔央はスヤスヤと眠っているし。




「二人は完全に独自路線を歩み、私や川神先輩の声も届きません」


 地味に衝撃の事実、川神先輩は四里の先輩でもあった。


 これは、やはり先輩の実年齢は相当行っているパターン?


「でも、二人は何を言っているの?」


「それは……」



『そこから先は、私が説明するわ』



「誰!?」


 突然、バス内に聞き覚えのない声が通る。


『薄々は分かっているでしょう?』


「知恵の七使徒……」


『そうよ。正義(四里)のタブレットを支配して話をしているわ』


「!?」


 四里が慌ててタブレットを操作しようとするが、できないようだ。


 須田院すだいんのAIを破壊したこともあった。どうやら、知恵の使徒は機械系に影響を及ぼす能力があるようだ。


「君達は、何が狙いなんだ?」


『フフッ、ウフフ、アハハハハハハ!』


「な、何がおかしいんだ?」


 いきなり大笑いした知恵の使徒に、イラッとなって問いただす。


『狙い? 質問に質問を返して悪いけど、貴方の狙いは何なの? マスター・ユウ』


「僕の、狙い?」


『世界の救済? 英雄願望? まさか、見たこともない99%以上も含めた人類全員を全員助けたいと本気で考えているの?』


「クッ……」



 痛いところでは、ある。


 木房さんや山田さんほど割り切っているわけじゃない。


 ただ、魔央の件も含めて、僕がどこまで必死に世界を救わなければいけないのか、そこに疑問があるのも事実だ。


『いいのよ。世界の全員に誠実である必要はないわ。本気でそう思っているのなら、むしろ騙されている愚か者だわ。正直に認めるべきよ。世界の99%はどうでもいい。自分とその知る世界だけ守ればいいって』


 甘美な言葉が響く。


『私たちも同じよ。でも、だからと言って、脱落者を全滅させるべきかしら? そこまでの傲慢は許されていないんじゃない?』


「確かにそうだ」


 AIとか動物については分からないけど、80億を1千万人にしようとか、浄化とかはやりすぎだと思う。




「人類の排出エネルギーは維持限界を超えているであります!」


「水だってなくなるわ」


 木房さんと山田さんが知恵の使徒の発言にブーイングを送る。


「でも、それは技術の発展で何とかならないかな」



『はっきり言うけど、そんなことはありえないわ』



 おまえはどっちの味方なんだ!


 そう叫びたくなる。



『世界の99.9パーセントの技術は特許などで制限されているわ。しかも、自由主義陣営、権威主義陣営問わずに、ね。彼らのうちの誰だろうと、自分達を没落させるようなことを行うことはないわ。増してや協力なんて』


「むむむ……」


『研究予算をン千億ドルかけて、世界を幸せにし、自国や自分の会社の地位を低下みなさい、ロクな死に方ができないことを保証するわ』



「やはり、そうよね」


「ワタクシ達が正しいのであります!」


 君達、ちょっと黙っていてくれないかな……。




 悔しいが、彼女の言うことは本当だろう。言い返せない。



 しかし、知恵の使徒は、どっちの意見も否定して何を言いたいんだ?

 さっぱり分からない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る