第10話 記者は物知り

 四里泰子よんり やすこの右手が動く。


 ペン先が光ったかと思うと、突然肩口に痛みが走った。


「私は正義を司る七使徒・四里泰子。このペンは真実を知り、正義を実現しない限り、相手に絶望的な苦痛を与え続けます。これが私の能力“ペンは剣よりも強し(物理)”です。おとなしく白状しないと貴方の傷からは血が流れ続け、最後は失血死しますよ」


「そんな力があってたまるかぁ!」


 いきなり拷問で吐かせようとは、とんでもない女だ。


 だけど、文句を言っても叫んでも痛いのは変わりない。



 これは、本当のことを話さないと解放されないのだろうか。



 弱気が首をもたげてくる。


「あれ?」


 しかし、四里も不思議そうに首をかしげていた。


 僕も気づく。その理由は肩から流れる血だ。


「血が……白い?」


 普通、血というものは赤いものだ。動脈と静脈で黒っぽかったりすることはあっても、赤い成分が失われることはない。


 しかし、今、僕の肩から流れる血は明らかに白い。こんな白い血は考えられない。


「そうか、狂える白血球が力を増し、血を白きしているんだ」


 携帯で顔を見るとびっくりするくらい顔が白い。


 血色が抜けて、能面のようだ。


 それにつれて、痛みも薄れてきた気がする。


 これなら勝てる!



 いや、勝つ手段はないけど、四里を無視しても大丈夫なようだ。



「フッ……」


 と、四里は不敵な笑みを浮かべた。


「なるほど。貴方についてのもう一つの疑惑も真実だったということですね」


「もう一つの疑惑?」


「破壊神が誕生する時、神は一人の天使にギャラルホルンの笛を持たせて7人の使徒と共に地上に派遣し、最後の審判を執り行う……」


 一人の天使?


 七人の使徒?


「貴方こそ、私達七使徒のマスターであり、最後の審判を司る“最後の天使”なのです、時方さん。貴方が決断を下しし時、邪なる人間は死に、神の国が降り立つ……」


「えっ?」


 えぇぇぇぇっ!?



 僕が最後の審判の決定権者?



 魔央の対なるものではない、ということ?



「いいえ、それもまた含まれているということです」


 四里に僕の心の声が聞こえたようだ。


「どういうこと?」

「破壊神に潰されるような人類と世界なら、選別して救う必要もなくまるまる潰れてしまえということです。神は人類に二段階の試練を与えたということですね」


「まずは魔央の、次に僕の?」


「そういうことです」


「よく知っているね」


 自称最強AIのMA-0でも知らなかったというのに。


「週刊憤激を甘く見てもらったら困ります。さて、第一の疑惑ですが」


「ゲッ」


「まさか私たちのマスターたる最後の天使に憤激砲を向けるわけには行きませんが、ヂィズニーランドを極少数の人間で貸し切る横暴を見逃す訳には行きません」


「いや、いいことじゃないけど、僕が希望した訳じゃないよ……」


「ですから、もう少し多くの人間が楽しむべきです。例えば私です」


「なぬ?」


「ということで、明日は私もヂィズニーランドに行きます」


 四里は半ば強引についていくことを決めてしまった。明るみにされても困るから従うしかない。ちゃっかりしているなぁ。


「その際に反逆者たる残りの二人について話をしましょう」


「反逆者!?」


 僕は驚いた。


 残る二人ということは、知恵と希望?


 知恵が誰かは知らないけど、希望は天見優依だよね。


 彼女、反逆者だったの!?

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