第9話 悠、取材を受ける


 次の日、僕は朝起きると大学に向かった。

 午後からヂィズニーランドに行くけど、その前に午前の講義だけは出ておこうと思ったのだ。

 地下鉄で二駅だけど、歩いて行こうと鞄を背にした瞬間、後ろにいる女性に気がついた。サングラス姿で、白いスーツを着こなしたキャリアウーマンという装いの女性だ。

 彼女が声をかけてきた。

「おはようございます。時方悠さんですね?」

「はい……」

 名前を呼ばれたことに、不安が募る。

「本日、ヂィズニーランドを貸し切るという噂は本当でしょうか?」

「すみませんが、どなた様ですか?」

「おっと、申し遅れました」

 彼女は待ってましたとばかりに名刺を取り出した。

「週刊憤激・憤激砲課の四里泰子と申します」

「憤激砲というと芸能人の浮気記事とか書くやつですか?」

「そういうのも書きますね。ですが、今回お伺いしたいのは時方さんのヂィズニーランド貸し切り疑惑です。私のデスクに時方さんが明日ヂィズニーランドを貸し切るという信憑性の強い情報が入ってきています」

 ギクッ。

「ヂィズニーランドは通常貸し切れて3時間です。一日貸し切りが認められたとなりますと前例のないことです。当然、相当な力が働いたはずですが、ヂィズニーランドはその事実を濁しています」

 冷や汗が背筋を伝う。

 今日日の週刊誌の取材力ほ恐ろしいようだ。まだ貸し切った訳でもないのに、たった一日前に決まったことを嗅ぎつけてくるとは。

「かなりの権力濫用と忖度が働いていると思います。いかがでしょうか」

 これはヤバいなぁ。

 どういう経緯で漏れたのか知らないけど、完全にバレているじゃないか。僕が望んだ訳でもないのに、取材を受けるって理不尽なんだけど。

 これ、言っちゃったらどうなるんだろう。首相が手配したなんて分かったら大変なことになるだろうなぁ。別に恩義もないけど、僕と魔央のせいで内閣総辞職とかなったら後味悪いなぁ。

「……無言ということは全て認めるということでよろしいのでしょうか?」

 気づいたら、四里泰子からマイクを向けられていた。

「無言イコール黙秘ですよ?」

「黙秘するということは隠さないといけないことがある、ということですね?」

 酷いな、完全にクロ扱いじゃないか。


 貸し切りはやりすぎだとは僕も思う。

 ただ、この仕打ちはあんまりではないか。

「四里さんといいましたよね。僕は普通の大学生なんですが」

「ほう、それで?」

「僕が直接ヂィズニーランドを貸し切れるはずがないでしょう? 仮に貸し切ったのだとすれば、僕以外の偉い人のはずです。そちらに聞くのが筋ではないですか? ただの大学生に聞き込みなんて横暴だと思わないのでしょうか?」

「思いませんよ。私には知る権利があります」

「いや、そこは私じゃなくて国民の知る権利なのでは?」

 って、僕が彼女の側で発言してしまった。

「いいえ、私の知る権利です。知っても何も出来ない国民など関係ありません」

「えぇぇ」

 いや、取材記者の本音はそうかもしれないけど、ここまであからさまに言って良いわけ?

 と思ったら、どうも様子が変だ。

「私が知ることで正義は実現されます。何故ならば、私が正義を執行するのですから……」

 彼女は左手で向けたマイクはそのままに右手をカンフー使いかのように下向きに構えた。その先にペンがあり、赤いインク? が垂れている。

「時方さん、この四里泰子のペンを甘く見ないよう忠告しておきます。このペンは、貴方の血を吸い尽くすまで、止まりません」

 その瞬間、四里のペンが光ったように見えた。

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