第8話 奈詩の苦悩

 食堂には、武羅夫たらお武蔵むさしの二人も含めて、魔央まお、川神先輩、須田院すだいんと座っている。そこに木房さんが大きな盆を持って入ってきた。


 出されたオムライスはかなりのビッグサイズだ。真ん中にドーンと「負け組万歳」とケチャップで書いてあるのは、いかにも木房さんならではということだろうか。


 と、インターホンが鳴った。山田さんも戻ってきたらしい。


「掃除、ご苦労様」


「えぇ、20人程度だったから、簡単だったわ」


「意外と協力する人が多いんだね」


「そうね……」



 全員が座って、食事の時間だ。


 まずは木房さんが川神先輩に声をかける。


「川神先輩、街で浄化してほしいであります」


「ブッ!」


 いきなり何ていう物騒なことを言うんだ、この子は。


「……それはできないわ」


「何故であります? ワタクシが頑張っても一日に数十人が限度であります。先輩なら、一度で数百人をまとめて浄化できて便利であります」


 一日数十人も抹消しているんかい……。


「浄化した中にボイスターズファンがいたらどうするのよ?」


「ギガンテスやトラーズやボークスならともかく、ボイスターズファンやペンギンズファンはまずいないであります」


「……木房奈詩きぶさ なうた、表に出なさい」


「まあまあ、喧嘩はやめよう」


「そうですよ。このオムライス、美味しいです」


 魔央がにこやかに頬張っている。何故か彼女のオムライスだけ国旗の旗が立っているあたり、木房さんも魔央がどういうご飯が好きかを分かっているのだろう。


 ただ、破壊神が一番まともで、善性を受けた面々がとんでもないっていう状況、どうにかならないものだろうか?


「このままではとてもではないですが、79億9000万人消すことはできないであります」


「無理にしなくていいんじゃないの? 人類も良くなっていくんじゃないかな」


「時方様は甘いであります」


 僕が諫めようとすると、当然のように木房さんは反論する。更に須田院まで続く。


「そうですね。人類の未来を期待するのは、間違っていると思います」


「えぇぇ……」


 そういえば、こちらはこちらでAIの世界を主張しているんだった。


 ここにはいない堂仏都香恵どうぶつ つかえは「動物たちの世界を」とか言い出しそうだし、ここには人類に賭けるものがほとんどいないじゃないか。


「そもそも、人類ってこの50年退化していますからね。未来に行けば行くほどロクでもないことになっていきます」


「えっ、退化はしていないでしょ?」


「考えてみてください。ニール・アームストロングが月に到着したのは1969年ですよ。それから二人目は行っていません。また、1960年代に開発されたマッハ2で飛ぶコンコルドは2001年をもって廃止され、以降それを上回る飛行機も開発されていません。マッハを出さない飛行機ばかりが飛んでいます。人類は発展に向けてのエネルギーを全て放棄し、仲間内で対立ばかり続けているわけです」


「むむっ……。でも、インターネットは便利じゃない?」


「確かに便利ですが、そこから何か画期的なものが発見されたでしょうか?」


 須田院の言葉を川神先輩が受ける。


「時方君、貴方、キャバクラとかガールズバー、ホストクラブに行ったことはある?」


「……ないですけど?」


「ああいうところは、他人に日常の愚痴を聞いてもらうところよ。お金を払ってね」


「まあ、そうですね」


「翻って、ここにあるトイッター。川野遥のアカウントを見てみなさい。このつまらないつぶやきを」


「つまらないですね」


「それなのにSNSという、魔法の言葉に騙されてみんなが見ているわけよ。酷いのになると、対価を払ってこういうものを見ようとしている連中もいるのよ。分かる? キャバクラでは聞いてもらう側がお金を払うのに、SNSでは聞かされる側がお金を払うのよ。こんな理不尽なことがあるかしら?」


「えぇぇ……」


 先輩、SNSに何か恨みがあるのでは……。



 ダメだ、七使徒とその関係者が多数いると、人類の破滅を望む方向にしか話が進まない。

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