第7話 石田首相の計らい?
オムライスが焼きあがる香ばしい匂いが漂い始めてきた。
山の中を散々歩き回って空腹なお腹がダイレクトに反応する。早く食べたい。
というところで、携帯電話が鳴った。
知らない番号だ。
ここ数日の流れからすると、知らない電話からの着信には嫌な予感しかしない。
とはいえ、知らんぷりもできない。
電話に出るしかない。
「もしもし?」
『やあ、時方君。元気かね?』
知らないおじさんの声が聞こえてきた。
「どちら様でしょうか?」
『石田だよ! 内閣総理大臣・石田富士男!』
「ああ、首相でしたか。どうかしましたか?」
『うむ。ラブラブ作戦の方はうまく進んでいるかね?』
わざわざ確認の電話を入れてきたのか。
首相も思ったより暇なんだなぁ。
「えっとですね。野球を二日連続で見に行きまして、うち一回は予期せぬ事態で中止になりました」
『ふむ……』
「ご飯は三回くらい一緒に食べて、これからオムライスを食べるところです」
『……』
「そんなところですかねぇ」
『君ぃ!』
「うわっ! 何ですか?」
『何なんだ、その草食ぶりは!? もっと、こう、チューをしましたとかそういうのはないのかね!』
うわ、うざいなぁ。若者に対して「チューくらいしていないのか?」って完全に嫌われるおじさんのやることだと思うのだけど。
『君は日本がどうなってもいいと言うのかね! 世界が滅んでもいいのかね!?』
首相は、電話の向こうでキレ気味に話している。
面倒だなぁ。
そもそも、世界はこの四日間で二回滅んでいるんだけど……と言おうものなら、更にややこしいことになりそうだ。
「……そんなことを言われましても、色々と変わった人達が出てきまして」
そもそも最初に話を聞いた時に、七使徒とかそういう話は全く出てないぞ。
護衛だって、魔央は知っていたみたいだけど、僕は聞いていないし。
この状況で、四日で進展させろ、って無茶な話だ。
日本の政治は四年くらいではほとんど何も変わらないのに。
とはいえ、言いたいことは山ほどあるけれど、言ってどうなる問題でもない。
黙って待っていると、一通り文句を言った後で、石田首相は溜息をついた。
『ふう、仕方ない。今時の草食系男子でも進展できるような場を提供できなかったのは、私の落ち度だ』
「それはどうも……」
『よし、明後日、ヂィズニーランドを貸し切りにしよう。二人で朝から楽しんでくるといい』
「ヂィズニーランドですか?」
『明日、近くのホテルを一部屋予約する。明日の午後、浦安に向かうといい』
「いいんですか?」
ヂィズニーランドに行ける、やったーというよりも、こんなことをして大丈夫なのかという疑問が湧いてくる。
確かに、魔央は世界を滅ぼすことができる存在で、そうしないために色々手を尽くすのは分かる。しかし、こうもポンポンお金を投じていていいのだろうか?
首相だけでなく、武羅夫も気軽にホイホイお金を使っているし、そうしたお金について問われたらどうするんだろうか? 国会で「破壊神から世界を救うため、宥めるための資金として使っていました」と説明するのだろうか?
色々疑問だ。
とはいえ、首相は「それでは、楽しんできたまえ」とご機嫌な様子で話をしている。既に決まったことについて、しかも、みんなが喜ぶだろうことについて、僕があれこれ言うのも違うのかもしれない。
「分かりました。ありがとうございます」
僕はそう言って電話を切った。
ちょうどその時、食堂の方から「全部できたであります」という木房さんの声が聞こえてきた。
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