第6話 帰宅後の憩い

 奥多摩の道路まで出た僕達は、どうにかタクシーを呼んできて最寄り駅まで行き、そこから電車で戻る。



 部屋に戻った時にはもう夕方だった。


「お、遅いな、悠」


「全くでござる」


 戻った僕を迎えたのは武羅夫と武蔵だった。


 中途半端に身体能力だけあるから、そのまま自力で帰ってこられたらしい。



「魔央はどうしているの?」


「暇だからって、木房さんと山田さんを呼んできて、ゲームをしているぞ」


 マジか。


 人が山奥でヒィヒィ言っていた頃、楽しくゲームをしていたのか。羨ましいなぁ。


 でも、何で木房さんと山田さんが来ているんだ。


「それはまあ、メモ帳に連絡先があるのが、その二人しかいないから」


「むっ……」


 その二人しかいない、というより、この部屋に移ってきてから知り合ったのがその二人にここにいる二人、あとは川神先輩、須田院、堂仏くらいだ。


 全員、変人ばかりだ。




 と、台所の方から何かが焼けるような音がした。


「あれ、誰か何か作っているの?」


 移動してみると、魔央とフライパンを振っている木房さんの姿があった。


「おや、時方様。どこかにお出かけでありましたか?」


「うん、まあね。何か作っているの?」


「晩御飯のオムライスを作っているであります」


「木房さんは料理が上手なんですよ~」


 魔央がにこにこと笑いながら褒めている。


「フフフ、お任せあれ……と言いたいのですが、半分は素材の力であります」


「素材?」


 確かに、立派そうな包装に包まれた米、卵、鶏肉が用意されている。


「この卵は、年に20個しか取れないという極上の卵であります」


「確かに、随分とボリュームがあるね。普通の卵の倍くらいありそうで、むしろ卵に見えないよ」


「黄身がとてつもなくクリーミーなのであります。一個2000円もするであります」


「とても負け組が使うものとは思えないね」


「……細かいことを気にしていたらストレスで身を崩すであります。次にこの米は皇室御用達米を作成している農家が、あらゆる化学素材を用いずに作った米であります。そしてこの肉は……、ケチャップも……」


 途中から呪文かお経のように聞こえてきた。


 とにかく、ものすごくいいものを作ってオムライスを作っているということだろう。


「でも、そんなもの、どこで揃えたの?」


「服部武羅夫が色々頼んでくれたのであります。支払も国がするから、気にしなくていいと言っていたので、ワタクシ達がありがたく食べることができるわけであります」


 武羅夫め、一度浄化されて作り直された身体のはずなのに、国税で贅沢する思考はそのままというわけか。




 しばらく木房さんが鍋を振っている様子を観察する。


 オムライスを作るのに、中華鍋が火を噴くものなのだろうか。本格的な料理をしないのでよく分からない。


 しばらく雑談をしているうち、はたと気づく。


「そういえば、山田さんも来ていると聞いたけど?」


 さっき、武羅夫は山田さんも来ていたと言っていたが、ここにはいない。僕がいたら、呼ばなくても出てきそうなものなので違和感がある。


「15分ほど前に掃除があると出て行ったであります」


「掃除? 部屋の掃除でも忘れていたわけ?」


「左様であります。この銀座に巣食うゴミを掃除しに行ったのだろうと思います」


「そうなんだ。大がかりなんだね」


「左様であります」


 山田さん、すごく変な人だと思ったけれど、地域の清掃活動に参加するくらいにはなじんでいるんだ。


 僕はちょっと彼女を見直すことにした。

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