第5話 堂仏都香恵と動物たち

「ボクの名前は堂仏都香恵どうぶつ つかえ。よろしくね、時方悠」


 堂仏はそう言って右手を差し出してきた。


 あれ、堂仏って聞き覚えがあるぞ。


「そうよ。節制を司る七使徒のことよ」


 川神先輩がここぞとばかりに紹介してくれた。



 やはり七使徒か。



 しかし、何故、この子はゴリラに乗っていて、ツキノワグマが銃を持って匍匐ほふく前進をしているんだ?


 この動物に色々なことをさせる能力が、彼女の持つ異能なのだろうけれど。


「ゴリラなんて言うのは感心できないな。彼にはヤスオという立派な名前があるんだから。君は自分をニンゲンと呼ばれたらどう思うわけ?」


 堂仏はボーイッシュな見た目でボクっ娘だけど、結構細かい子だった。


「ボクは見た通り背が低いからね。ある程度背の大きなものにまたがっていた方がいいのさ。ヤスオは背筋が凄いから、僕が乗っても安定しているからね」


「それなら象に乗ったらもっといいんじゃないか?」


「ここは日本だよ? 象に乗ると目立って何もできないよ」


 いや、ゴリラでも十分目立つだろ。


 君こそ何を言っているんだ。


「で、彼らのことだけど、ツキノワレンジャー部隊は、ツキノワグマ界の秩序維持のために訓練中なんだ」


「ツキノワグマ界の秩序?」


「最近、クマが増えて迷惑だというニュースを見たことはない?」


「ある。北海道だと大都市にもヒグマが出ているって」


「そうなんだ。最近、日本は動物が増えてきて、僕にとってはめでたいんだけど、人間に犯罪者がいるように動物にもダメな奴はいるんだよね。そういう連中を自分達で駆除できるようになってほしいから、彼らを訓練させているのさ」


 どこから突っ込んでいいのか、さっぱり分からない。


「問題児ならぬ問題熊をこいつら……彼らが処分するわけか?」


「そうだよ。ボクの本音としては、人口減少が続いているんだから、人口三万以下の街は明け渡してクマのものにしてほしいんだけどね。少ない人口のところを無理に維持するより、都会の空き家に移住してもらって、まとめた方が政府も色々楽でしょ」


「一理はあるけど、本州はともかく北海道がガラガラになると国防的に問題があるんじゃないかな?」


「何を言っているんだよ、これ見てよ。あれ? 携帯電波が届かない?」


 堂仏が携帯を取り出して、困惑している。




 須田院すだいんが答える。


「先ほど、知恵の七使徒にMA-0が破壊されてしまって、このあたり一帯の電波や回路が機能停止になってしまいました」


 堂仏が驚いた。


「えっ? マジで? 象が一万頭が相手でも撃退できるって豪語していたのに?」


「内から大量の計算攻撃を受けてしまってはお手上げでした」


 堂仏は「あぁ」とポンと手を叩いた。


「だから、みんなは迷子になっているわけだ」


「そうなんだ。何とか街の方に出たいんだけどね」


「それじゃ、ツキノワレンジャーに案内させるよ」


「本当か!?」


 それは有難い。



 堂仏がツキノワグマ達に指示を出した。


 五頭のツキノワグマは一斉に伏せて、匍匐前進を開始する。


「あのさ……匍匐前進しなくて、良くない?」


 進むのが遅いんだけど。


 しかし、堂仏はとんでもない、と首を横に振った。


「もし、知らない人間達に見つかったら大変なことになるからね。見つからないように進まないと」


 なるほど……


 確かに、五頭のツキノワグマが銃を持っている様子が発見されたら大ニュースになりかねない。


「というか、この銃はどこで造られているの?」


「カワカミ・テックで造っているわ」


 答えは先輩から返ってきた。


 だから、二人はお互いを知っていたわけか。ついでに堂仏がこの辺りにいたわけか。




 三時間ほどのんびりと進んで、どうにか人里らしいものが見える道路まで出てこられた。


「ここまで来れば、後はタクシーで帰れるわ。堂仏の友達は頼りになるわね」


 川神先輩が褒めている。確かに役に立つというか、何というか。


 まあ、でも、ここは素直に感謝すべきだろう。僕も御礼を言う。


 ふと、先程の山の中でのことを思い出した。


「そういえば、さっき山中で何を見せようとしていたの?」


「ああ、これだよ。電波が回復したから、観てもらえるかな?」


 堂仏が僕達に携帯を見せる。




 北海道の山地に、陸上自衛隊の戦車数台が砲撃をしている。


 その遥か先、塹壕の中でヒグマ達が耐えている様子が映る。


 画面が切り替わった。


 真っ暗な画面が映る。


 映像不良かと思ったが、すぐに多数の穴が開いた。


 そこに映るのはモグラの大軍、地面をものすごい勢いで掘り進んでいる。



 モグラ達の後方を、銃を持つヒグマ達が走る。


 その数、二百は超えていそうだ。


 モグラが地上まで掘り進むと、ヒグマが手りゅう弾を穴の外目掛けて投げる。


 それが戦車に直撃した!


 揺れる戦車。


 一斉に穴から出るヒグマ達。


 銃を乱射しながら戦車に近づき、三、四頭がかりでひっくり返す。


 ヒグマがいい笑顔でサムアップして、こちらを向く。


 そこで動画は終了した。



「これはボクが最近鍛えているヒグマ・ベレーなんだ。この映像は実際の訓練じゃなくてコンピューターの想定だけど強いでしょ?」


「……本当にこんなに強いのか?」


「強いよ。彼らを本格配置したら、北海道が他所の国に攻め込まれることはないよ」


 まあ、そうかもしれない。


 でも、そのうち「北海道は俺達のものガウ」と独立するんじゃないだろうか。

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