第3話 MA-0、崩壊

 須田院阿胤すだいん あいんが語る僕は中々に強烈な存在だった。


 破壊神に対抗する白い存在。


 それは決してありがたい存在ではなく、周りを白く塗りつぶす存在。


 それどころか、木房さんやら山田さん、川神先輩といった滅茶苦茶な存在の上を行くのだという。



 信じられない。


 僕の日常は、この数日で全く違うものになってしまった。



「時方君、ショックなのは分かるけれど、ボイスターズがサヨナラ負けしても明日はやってくるわ。受け入れるしかないのよ」


「川神先輩……」


 初恋の相手の死と、サヨナラ負けを一緒にしないでほしいのだけど、それを言って通じる人でないことはもう明らかだ。


 変わったことを嘆いても仕方がないというのも事実だ。


 新しい生活になじんでいくしかない。




「しかし、七使徒の上を行くといっても、七人は僕を認識しているのかな?」


「存在そのものは知っているでしょう。ただ、全員が詳しく認識しているわけではなさそうです」


「あ、そういえば……」


 須田院の言葉に、僕は唐突に天見優依あまみ ゆいのことを思い出した。


 最初に横浜スタジアムに行った時、彼女は僕の方をチラッと見たように思えた。


 その時は、彼女のようなアイドル歌手が僕のことを知っているはずがないと思っていたのだけれど、七使徒の一人として『希望』を司る彼女としてなら、話は違うのかもしれない。


 やはり、あの時のボイスターズは天見優依の仕業なのだろうか?


「何度も聞いて申し訳ないんですけど、もし良かったら、天見優依について調べてもらってもいいですか?」


「……よろしいでしょう」


 須田院が入力をした。壁面にある大きなモニターに、色々な情報が出て……


 ……来ない。僕が前に調べたくらいの情報が出てきた後、急に警告音のような高いサイレン音が鳴り響く。



『警告メッセージ!』


『警告メッセージ!』


 モニターに真っ赤な文字で表示される。


「こ、これは……?」


 須田院が物凄く動揺している。僕にとっても予想外だったけれど、彼女もこんな展開は予想していなかったようだ。


 続いてメッセージが表示される。



『たかだか計算機のくせに、優依ちゃんに近づこうとするなどおこがましいわ!』


『知恵を司る私がついている限り、ポンコツ機械の出番はないと知ることね』



 知恵を司る?


 山田さんが唯一、その実像を知らない知恵の七使徒がMA-0えむえー・ぜろに攻撃をしているのか?


「一秒間に30那由多の質問がぶつけられている? 信じられない! 一体どんな計算機を使えばこんなことが……、しまった! 電源を落とさないと……」


 状況を理解した須田院が青くなっている。


 どうやらあまりにも大量の情報をぶつけられたことで、MA-0がオーバーヒートを起こしてしまったようだ。慌てて電源を落とそうとしているが。


「間に合わない!」


 MA-0はオーバーヒートを起こしてしまい……



 爆発してしまった!



「くっ! 浄化の光よ!」


 川神先輩が、この前の試合でも見せた光をもって、爆発エネルギーを食い止める。


 どういう理屈で食い止めているのかはさっぱり分からないけど、とにかく止めている。


 時間にして二秒か三秒、爆発エネルギーはなくなった。


「先輩、ありがとうございます」


「……礼には及ばないわ。だけど、道が破壊されてしまったわね」


 先輩の言う通り、山の一角が爆発で吹き飛び、ここに来るまで向かってきた道などが完全に崩落している。


「山奥だから携帯の電波も通じていないわ。須田院、何か手立てはない?」


「お、お嬢様。それがですね……」


 須田院が苦笑しながら頭をかいている。


「実は、このあたりの管理やら電力やら、全てMA-0に任せていたので、彼女が壊れてしまうと何一つ……」


 IQ300、どうやら普通に敗北したらしい。



 この時点で僕に分かったことは二つ。



 まず、『知恵』を司る七使徒は天見優依についている。そして、その能力はIQ300の須田院よりも上らしい。


 もう一つ、僕達は奥多摩の山奥に取り残されてしまったということだ

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