第三章 脅かされる人間?
第1話 支配せよ、AI
強力AI・
その力たるや恐ろしいものだ。世界を支配するという
しかし。
「世界を支配するAIって、問題ではないですか?」
人工知能の発展は目覚ましいものがあると聞く。
ただ、その発展が早すぎて、やがて進化しすぎたAIが人類を凌駕して滅亡させるのではないかという話もある。
そんな状況で人類を支配するAIを開発しているのはまずいだろうる
そもそも、カワカミ・テックに雇われているだろう立場で、そんなことを言ってしまってもいいのだろうか。
須田院は「フフフ」と怪しい笑みを浮かべた。
「問題にしているのは一部の愚かな人間だけです。MA-0は間違いなく人類に無上の幸福をもたらします」
「でも、どちらかというと愚かな人間ではなく、科学者とか頭の良い人がAIの危険性を訴えていません?」
僕の再度の質問に対して、須田院は更に楽しそうに笑い始めた。
「……ウフフフフ、
「誤解?」
「貴方は、頭の良い人、と言いましたよね? そんなことはないのです。彼らはもちろん、人類という限定された環境の中では多少頭がいい方なのかもしれません。しかし、全世界の叡智の前では凡人に過ぎません。それを暴かれるのが恐ろしいから、彼らはAIを遠ざけようとするのです」
「あぁ、なるほど……」
確かにAIが進歩し続ければ人間の届かない知恵を得るかもしれない。
人間と違って、先入観もないだろうし、それこそ「神がいるのか?」みたいな問題に対しても何らかの答えを導き出してしまう可能性がある。
これの都合が悪いのは、今、エリートとして君臨している人間になるんだろうなぁ。
「AIが人間を支配する段となっても、人類を滅亡させるようなことをするはずがありません。狼のことを考えてみてください」
「狼?」
「狼の一部は一万年以上前、人間に支配されることを選び、犬となりました。それから長い年月が経ち、どうなりました? ここ日本ではニホンオオカミが滅亡したように幾つかの狼は滅びました。しかし、人類が犬という種族を滅ぼそうとしたことがあったのでしょうか?」
「……ないですね」
もちろん、個別にどうしようもない飼い主がいて、虐待することはあるけれども、犬を全滅させようとしたことはないはずだ。
「人類がAIの支配を受け入れるならば、AIにとって人類は犬のような共存共栄をもたらす存在です。何故わざわざ滅亡させようとするのでしょう? 先程、貴方はAIに吼えている人を賢い人と言いましたが、人間が怖くて吼えている犬を、私達は賢い犬とみなすのでしょうか?」
「でも、人類という存在自体が犬になるのは問題なのかも?」
須田院は失笑のような笑いを浮かべた。
「それこそお笑い草です。99パーセントの人間は既に犬のようなものではないですか。例えば国や会社、そうしたものに尻尾を振る存在ではないですか? 国や会社がAIに取って代わるだけの話です。しかも、MA-0はいかなる国や会社よりも優秀なのですよ?」
うぅむ、言われてみるとそうかもしれない。
得体の知れなさはあるけれども、それは別に今だって変わるわけではない。訳の分からない陰謀論も含めて、権力の頂点やら中枢については色々不明確なものがある。仮にAIが支配するようになったとしても、主人が変わるだけというのは確かにそうなのかもしれない。
川神先輩はどうなのだろうか。
仮にMA-0が世界を支配したら、川神財閥もカワカミ・テックも存在意義をなくすことになるのでは?
「別にいいんじゃないの?」
軽っ!
驚くべき軽さだが、考えてみれば先輩にとって大切なのはボイスターズの勝利だ。誰が支配して支配されるなんていう問題は関係なかった。
「さすがはお嬢様。賢明な態度です」
須田院が恭しく頭を下げた。
MA-0が世界を支配したら須田院もその側近だし、川神先輩も優遇されそうだから、反対する理由がないわけか。
「時方悠君、まだ疑うようであれば、一つ、MA-0が優秀であることを示してあげましょう」
「それは武羅夫と武蔵の作り直しで理解していますよ」
「それだけではありません。貴方自身が知りたがっていることを一つ教えてさしあげますよ」
「僕の知りたいことですか?」
僕の知りたいこと、知りたいこと。
「あ、魔央が世界を滅ぼした時に、僕に問いかける存在がいるんです。『世界を救いますか?』って。その存在の謎と、復活できる理由、復活に際しての条件があるのかを教えてもらえると助かりますね」
そのうち此花婆さんにでも聞こうと思っていたのだけれど、あの日以来、連日凄まじい勢いで変なことが起き続けていて、聞きに行く余裕もない。
いい機会だから、ここで聞いてしまおう。
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